43 お節介を焼いてみます④
また適当なことを口走る。
「それじゃあ次に勝ったら、その残っている傷とやらを見せてもらいましょうか」
「見てどうするんだ……?」
「『ひゃあ……痛そう……!』って思います」
「何が楽しいんだ、それは?」
「えっ、楽しくないですか? 人の傷跡見るの?」
「分からない。楽しくはないと思う」
「負けたら私も見せてあげますよ」
「いや、そんなもの見せられても……」
ディーンはヒキ気味だったが、途中で変な顔になった。
「あなたも大きな怪我をしたことがあるのか?」
「いやあ、昔ちょっと野犬に噛まれまして」
ルウは肩口をぽんぽんと叩く。
「さいわい感染症もなくほぼ治りました。よく見ると痕がうっすらあります」
「……それは、軽々しく見せるべきではないだろう」
「こないだ着てたドレスでも全開でしたよ。あったの気づきました?」
「いや、暗かったので……」
「そうなんですよね、ほとんど分からないんですよ。見えるようになると面白いんですけど」
「何が?」
「見える、見えるぞ! ってなるじゃないですか」
「あなたの言うことはさっぱり分からない」
与太話をしている間に一ラウンド目を開始する。
ルウはさりげなく抜き取って袖口に隠しておいたカードをディーンに掴ませ、スリーカードを潰した。ディーンは役なしで負けた。
二ラウンド目はルウが手札を揃えておいたので、全チップ賭けてものにした。三ラウンド目に入る前にディーンのチップがなくなったので、不戦勝となった。
「ディーン様弱いですねぇ! さては手を抜いてます?」
ルウが調子に乗ってからかうと、ディーンは頭痛をこらえるような仕草をした。
「あなたが訳の分からないことばかり言うからだろう。集中させてくれ」
「私おかしなこと言ってますか? 自分ではよく分かりません」
ルウはとぼけつつ、テーブルの上のカードをざーっとまとめながら、また口を開く。
「それじゃあ質問です。ディーン様は何の『才能』持ちなんですか?」
「質問はまともなんだな……」
ディーンは戸惑った様子を見せつつも答えてくれる。
「私のは、『耐久性』の才能だ。人より頑丈で、さほど休息を必要としない。一ヶ月ほどなら寝なくても活動できるんだ」
「え、じゃあ、寝てないってことですか?」
「寝ることもある。魔獣と戦っている間は神経が興奮していて無理だが、気分がよくて、心配事が何もないときは眠れることもあるんだ。そうでなくても、夜はなるべく横になるようにしている。することもないからな」
「え……横になって、天井の染みとか数えてるんですか? つら! 拷問みたいな才能ですね」
「野営の歩哨などでは重宝される。ひとりで見張れるからな」
「普通に可哀想」
「あとはまあ、本を読んだりもする」
「人間は睡眠を取らないと寿命が削れるっていいますけどねえ……」
「大叔父も同じ才能だったが、八十の大往生だった」
ディーンはどこか誇らしげだった。
「頑丈で傷の治りも早いから、魔獣に足を噛まれても五体満足で生き延びたんだ。私を襲ってきたは虫類型の魔獣は顎の力が強くて、噛まれたらまずバラバラにされるらしい」
「でも不死身ではないんですよね?」
「死ぬときは死ぬだろう」
「人より苦しむ時間が長いってことですよね、それ。やっぱり拷問みたいですよ」
「苦痛も軽減されるようだ。どんな魔獣が来ても先に突っ込んでいこうと思えるのはこれのおかげかな。私はなるべくして聖騎士になったのだと思っている」
もしもこれが赤の他人だとしたら、聖騎士ってすごいなぁ、頼りになるなぁと好感を持ったことだろう。
しかしルウはディーンの不器用な性格を知ってしまった。
――知れば知るほど生きづらそう……
ルウの適当さを分けてあげたいとすら思ってしまう。




