41 お節介を焼いてみます②
「これはおいしいですね。バターとはちみつの組み合わせは考えてみたことがありませんでした」
「見てるだけで胸焼けしそうだ……」
「ディーン様のお食事もなかなかですよ。脂身が少なくてボソボソした食べ物を中心にチョイスしましたが、毎日これで辛くありませんか?」
「いや、特には」
「苦行僧なのですか?」
「聖騎士だから、まあそうだな」
「辛いご職業でございますね……私なら三日で逃走します」
「脱走兵は死罪だぞ」
「またまた」
「いや、本当だ。聖騎士団は遡れば厳格な宗派だから、宗派からの離反は死罪と決まっていた」
「気持ち悪い組織」
「気持ち悪い!?」
「ボソボソした肉を食え、さもなければ死ねなんて、どうかしているとしか思えません」
「いや、これは規則じゃなく……体力作りの一環というのもあるが、私はもともとこういう食べ物が好きなんだ」
「そんな……どんな人生を送ったらこんな野良犬の餌みたいなものを喜んで食べるようになるというのですか……?」
「失礼な……あなただって変な食べ物を食べているくせに」
「私のこれは、実家で冷遇されていたころの知恵ですね」
ルウは甘いパンを食べきって、ディーンの小皿から少々レバーパテを失敬した。クセのない味わいのレバーにタマネギの甘みとみずみずしさが加わり、比較的食べやすい味になっている。ディーンに出した朝食の中では一番マシだと思った。
「食事を抜かれることが多かったので、安物の紅茶にとにかくたくさんの砂糖を溶かして飲むのが習慣でした。忙しすぎて食事を取る暇がない下層階級の労働者がよくやっているんですよ。私の家も、使用人用の安い茶葉と砂糖なら多少盗んでもバレなかったので、貴重な食料としていただいてました」
目を丸くしているディーンに、すかさずニヤリとする。
「ディーン様は何でも本気にするのをやめた方がいいですね。アルジャー様もですが、私もたいがい嘘つきですよ。妻子を利用してディーン様の罪悪感を煽ったり、悲しい身の上話で同情を買ったりと、情につけ込むようなことを相手がしてきたら、要注意です。一度疑ってみることをおすすめします」
「な……どうしてそんな嘘を?」
「ディーン様がお人好しで、利用しやすいからに決まっているでしょう。アルジャー様はディーン様の真面目な性格を知ってて、わざとあんなことをしてるんです。まんまとのせられていてはいけませんよ」
ディーンは難しい顔をして黙り込んでしまった。ルウも黙々と手を動かし、皿の料理を消化していく。ブロッコリーのアンチョビ和えは、しょっぱい味とブロッコリーのほんのり甘い味が交互に来るので味の変化が楽しめる。
ルウはカナッペを黙々と作りながら、ディーンの考え事を見守っていた。
――なかなか人を疑えないのがディーン様ですよねぇ。
どうすれば伝わるのか、正直ルウも攻めあぐねている。
「世の中にどうしようもない嘘つきがいることは知っている。でも……私には、あなたが嘘をつくような人間には見えないんだ」
「見る目がないんですね、可哀想に」
「あなたのことだろう?」
「そうです。私が正直者? ディーン様は私との会話で何を聞いていたんですか? 全部の場面で適当なことしか言ってなかったですよね?」
「自分で言ってて恥ずかしくならないのか?」
「? 特には」
「特には!?」
ルウはカリカリのベーコンを苦労してナイフで切り分けた。脂っ気が全然ないせいで、硬くて切りにくい。スモーキーな味わいで大変に美味だが、どうも脂身が足りないと思ってしまう。
「あなたは変わった人だな」
ディーンにそれを言われてはおしまいだ。彼こそ変わっている、というのがルウの素直な感想だった。
朝食が済んだ後、ルウはトランプを持ち出した。いつかのパーティで使用した、賭け事用のイカサマトランプだ。
「勝負しましょう、ご主人様」




