33 メイドのお仕事楽しいです②
わずかな望みをかけて調べたのに、最後まで変わらなかったときの父の失望と、継母の積年の恨みが噴出し、ルウは家庭に居場所がなくなった。
「鑑定の仕方が悪かったのではないか? もう一度調べ直させた方がいいと思うが」
「どちらにしろ、お掃除の『才能』なんて貴族の中では役立たずのハズレですから。意味があるとは思えません」
貴族が発現させる『才能』といえば発火であったり落雷であったり、魔獣の討伐に役立つ力だったりする。鑑定がうまく行かなかったのも、火や水などの力を調べるのに特化した鑑定人ばかりだったからなのかもしれないが、ルウにはわざわざ新しく調べ直す気はなかった。
――現状のバイトなどでも苦労はしてませんし、生きていくには問題ないですからねぇ。
ルウはその日暮らしができればいいと思っていた。
「それにしてもメイドって楽しいですね。私、天職を見つけたかもしれません」
ルウはかなり本気で言ったつもりだったが、ディーンはそう取らなかったようだった。
「あなたに無礼を働いたことはお詫びするから、そろそろ遊びはやめてもらえないだろうか。ハミルトンがすっかり荒んでいるんだ」
「それは困ります。私、まだ他のメイドたちの内情を探ってませんし。知らずに私を嫌っているメイドが担当についたら酷い目に遭わされそうですもの」
「よくよく注意させる」
「人選がハミルトンさんだったら意味ないですよねぇ」
ルウは譲歩せず、その後もメイドごっこを続けるつもりだった。
「ここを出ていくときには、どこかのお屋敷に紹介してもらって、メイドとして生きていくのもいいかなって思い始めたんですよ」
「……冗談だろう? 侯爵家の娘が、そんな……」
「私に侯爵令嬢の矜恃なんてないですよ。あったら悪女になんかなりません」
ルウは自分を下町の娘だと思っている。生まれたところがちょっと広い屋敷だっただけ。
「待遇のいいお屋敷を紹介してほしいですね。できれば私のことを知らない……誰もこのメイドが悪女のルウ・ソーニーだなんて思わないような、遠く離れた平和な場所で、のんびりメイドをして暮らしたいです」
ディーンが返事をしない。かけるべき言葉が見つからないようだった。
――深刻に受け止められてしまいました。
真面目だなぁと思いつつ、ルウはまた口を開く。
「なんて、冗談ですけどね」
ルウは悪女の仕草で髪をかきあげた。
「贅沢して暮らしたいに決まってるじゃないですか。私は大金持ちの男性に見初められて、服やドレスを人に見せびらかしながら毎晩パーティ三昧の毎日を送りたいんです。でも、ディーン様は絶対に許してくれなさそうですよね」
ディーンはすぐに険しい顔つきになった。
「当たり前だろう。そんなことをすればすぐに出ていかせる」
「そうですよねぇ。じゃあもうお金持ちの男性の家にメイドとして送り込んでもらえればいいなって思いますよ。誰かいい人いませんか?」
「……呆れた。どうしようもない人だな」
「そうなんです。私はかわいくってモテるので、人生も適当でいいんですよねぇ」
「……失礼する」
ディーンは怒ってしまい、自分の部屋に引き揚げていった。
――本当に冗談が通じない人ですね。
息をするように嘘を吐いて生きているルウとは意志の疎通が取れなくて当然だ。
ルウは苦笑するしかなかった。




