32 メイドのお仕事楽しいです①
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ルウは新人メイドのルウとして、あちこちで仕事をした。庭の落ち葉を綺麗に掃き清めたら、お次は家中の窓という窓を拭き上げる。あっという間にピカピカになったガラス窓に朝日が反射し、翌日のディーンは「まぶしい!」と文句を言いながらがばりと跳ね起きた。
ルウはちょうどディーンの部屋で窓拭きをしていたので、「おはようございます、ご主人様」と爽やかにメイドらしく挨拶をしておいた。
「人の部屋で何を……?」
「もちろん、お掃除でございます。わたくし、清掃メイドでございますので」
「まだやっていたのか、それ……」
なぜかディーンは困ったような顔をしていたが、ルウの知ったことではない。
起き抜けにガウンを引っかけて、ルウのところに来る。
ルウは三脚の上でてっぺんのあたりを拭いていた。数年分の堆積した埃と泥で真っ黒だ。
「最近、屋敷の窓がまぶしくなった気がするんだが、あなたの仕業だったのか」
「拭き上げとコーティングをしておきました。一年くらいは掃除しなくてもピッカピカですよ」
「コーティングってなんだ……?」
「ご存じないのですか? スライム素材の撥水性がある保護剤、『スライムコートスーパーデラックス』でございます。汚れも分解するのでこれ一本で家中ピカピカですわ」
「そ、そうか……よく分からないが、便利な掃除道具があるんだな」
そしてまた次の日は床の掃除をした。ピッカピカに磨き上げたため、家の中はよりいっそうまぶしくなった。
「床に顔が映り込むんだが」
「磨き上げて、ワックスをかけておきました」
「フローリングだぞ? ワックスがけにも限度が」
「おやご存じない? スライム素材の『スケーティングフロアエクストラ』ですよ」
「な、なるほど……?」
ディーンはうっかり足を滑らせて転び、腰を押さえながらルウを睨みあげた。
「今度から滑らないようにしてくれ」
「防滑剤入りのスライム素材にしておきますね」
そしてまた次の日は、家中にある銀食器を磨き上げた。光を反射しすぎてもはや白い。
「……銀とは思えない輝きを発しているんだが」
「それもスライムシルバーポリッシュで」
「スライムが万能モンスターすぎる」
ルウの手で骨董品の家具などにも磨きがかかり、木材にツヤが戻った。錆びた引き出しの金具なども新品同様の美しさを取り戻している。
ほどなくして家中の掃除が完了した。
仕事帰りのディーンは、ピッカピカの玄関ホールでルウに出迎えられて、目をまんまるにした。
「新築のようになってしまった」
「することがなくなってしまいました」
ディーンは腫れ物に触るような、それでいて呆れたような目でルウを見た。
「……あなたは掃除の『才能』持ちなのか?」
ディーンの疑問ももっともだった。
この世界の人たちはみんな、『才能』を神様からもらって生まれてくる。ほとんどの人の『才能』は、料理がおいしく作れるとか、作物が元気になるといった日常的なものだが、貴族はほぼ全員が大規模な爆発を起こせるだとか、人の三倍速く動けるといった、大きな『才能』を与えられていた。
どんな『才能』を持ってるかの鑑定は、『鑑定』の『才能』を持った人が見てくれる。
この国では、全員が十三歳までに見てもらうことになっていた。
「私に『才能』はありませんよ」
「それは嘘だろう」
「本当ですよ。母が大きな『才能』を秘めていたので、娘の私にも期待がかかりまして、何度も鑑定人を変えてやり直してもらったんですが、結果はまったくの才能なしでした」
小さなころの鑑定結果は変化することもあるが、おおよそ八歳くらいから、同じ結果が出るようになる。ルウが最後に鑑定を受けたのは十歳のときだった。




