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30 聖騎士様が偏食な理由①

◇◇◇


 その日の晩はちゃんとした料理が出た。パンとスープと前菜、肉料理。ブイヤベースには軟らかく煮たイカがたっぷり入っており、ルウはこれがメインディッシュなのかと錯覚してたくさん食べたが、さらに鶏胸肉のレモンハーブソテーまで出てきたのでおののいた。こんなにおいしいイカのあとでは比べられてしまって鶏胸肉が可哀想なのではないかと思ったが、その鶏料理も絶品だった。どんな魔法を使ったのか、しっとりとジューシーでやわらかく、本当にこれが胸肉なのかと思うくらい食べやすかった。調理場でバイトしているルウも脱帽である。


 ――お店のやつよりおいしいかもしれません。あとで作り方教えてもらえないでしょうか。


 うまうまと人の家のご馳走を食べているわけなので、ルウに不満はない。


 しかし、ディーンが時折、カチンと食器にスプーンを当てながら食事をしているのには少し疑問を持った。


 ――テーブルマナーとしては怒られるやつですよね。


 ルウが怪しんだそばから、ディーンは、コップを取ろうとしてスプーンの柄を袖に引っかけた。


 からん、と音を立ててスプーンが床に転がる。


 何事もなく給仕係が新しいスプーンを渡していたが、ルウはいまひとつ腑に落ちないものを感じたのだった。


 ――テーブルマナーが悪い、なんて些細なこと、私は気にしませんが。


 ディーンは几帳面だから、人一倍気にしそうなものなのに。


 ルウは疑問に思ったら何でもすぐ試してみたくなる性分だ。


 何日か様子を窺い、どうやらディーンは騎士団に出向くときと、家で仕事しているときがあることを知る。


 そこで日中、ディーンが自宅で仕事をしているときを狙った。


 メイド服を着て突撃したのである。

 

 ルウはいっぱしのメイドらしく、淑やかに辞儀をして部屋に入った。


「ご主人様、紅茶のお時間でございます」


 にこにことテーブルワゴンを押し進めていくと、ディーンは面白いくらいうろたえた。


「な、なんであなたはまたそんな……!」

「まあまあ。あまり根をつめてお仕事をなさっては毒ですよ。一時間に一度くらいは休憩になさいませ」


 ルウは紅茶を淹れ、どぱどぱと砂糖をつぎ込んだ。


「いや、私は砂糖は――もういい、いいから、おい、待て!」

「あ、蜂蜜も入れます?」

「いるか! あなたが飲んでくれ、私は甘い物は摂らないんだ!」

「まあまあそうおっしゃらず。書類仕事には適度な甘い物がおすすめでございますよ」


 ルウはディーンの目の前の書類をざーっと横にどかして、カップを置いた。


 ディーンの性格を見越して、脅しをかける。


「飲んでいただけないなら、騎士団長様に執事さんのことを報告いたします」

「な、ひ、卑怯な……! さてはあのときの復讐か!? 復讐なんだな!?」

「ささ、ぐいっと一杯」


 ルウは背後に回ってカップを摂り、もう無理やりディーンに口をつけさせた。カップの水面が揺れ、こぼれそうになったところで、ディーンが下からカップを両手で包み込んだ。


「やめろ、自分で飲める!」


 ディーンはカップをルウから奪うと、やけ気味に全部飲み干した。


「……っ甘い! なんだこれは!?」


 にらみつけるディーンをものともせず、ルウはその手をじっと観察する。


 ディーンの手は、震えていた。カップをそっと降ろすときにも、カチャカチャと音を立ててしまうほど。それは不安や緊張からくる震えではないように見えた。


 ディーンは視線に気づいて、震える手の袖を下に引っ張り降ろした。


「……すまない、みっともないところをお見せして。ときどきこうなるんだ」

「辛そうですね。原因は?」

「……分からない。疲れだろうか。体力が落ちてくるとなりやすい」


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