3 立派な悪女を目指します②
心に誓ってはや三年。
――なかなか廃嫡されませんね。
簡単には大昔からの伝統を変えられないようで、廃嫡の請願も、今のところは却下されている。
パーティすっぽかし以外にもいろんな悪事に手を染めているつもりだが、名門貴族の正統な後継者だという事実が、ルウの悪評をなかったことにしてしまう。
――もっともーっと悪評を立てなければダメなのでしょうね。
ルウはいたずらが好きな方だが、ちょっと困らせる以上のことはしたくない。悪評を立てるにしても、誰かを悲しませるようなことはあまり望んでいないのだ。
だから自然と、身持ちの悪い娘だという評判頼みになる。
――でも、これ以上となると、本当にどなたかと恋をするしかないのかも?
ルウは異性との付き合いにさほど興味がなかった。夜遊びも、単に街をうろちょろ散策しているだけで、男性と付き合ったことはないのだ。友達の家を泊まり歩くときも、女の子の家にしかいかない。
「ルウ! 聞いているの!?」
「もちろんでございます、お美しいゴディバおばさま」
ルウのベタベタなゴマすりに毒気を抜かれたゴディバは、フンと鼻を鳴らして、
「とにかく、次のパーティをすっぽかしたら、今度という今度は許しませんからね」
と、捨て台詞を残してお説教を切り上げてくれた。
「なあに、ニヤニヤして気持ち悪いわね。怒られていることも分からないの? お姉様っていつもそうね。ひとりでニヤニヤしているの、馬鹿みたいに見えるからやめた方がいいわよ? そんなだからいつまで経っても縁談のひとつも来ないんじゃないかしら」
くすくすと笑う妹の声はあくまで穏やかで優しい。姉妹が会話する様子をちらりと垣間見ただけの人は、仲良く冗談を言い合っているようにしか見えないだろう。ヘルーシアの優しげな声に、皆騙されてしまうのだ。
「パーティに出ないのも、恥をかくのが嫌だからでしょう? お姉様ったら、ダンスも歌も、なぁんにもできないんですもの。今度こそ逃げようったってそうはいきませんからね。腕ずくでも引きずり出して、お嬢様失格だって言いふらしてあげるんだから」
「そういう手もあるのね。さすがはヘルーシアだわ」
感心しきった言葉に、妹は眉を逆立てた。
「次のパーティが楽しみだこと! 出席してもしなくても、お姉様はもうおしまいよ!」
――そうだったらいいんですが。
ルウだって早く家を出ていきたいのだ。彼女が猫であれば、とっくに野良猫の生活を選んでいただろう。
――だって、今の生活も野良猫みたいなものですし?
ルウの世話はとっくに放棄されている。食事は家族と別で、使用人からこっそり分けてもらったものを食べているし、部屋にはびっくりするほど持ち物がない。父親もさすがに外聞は気にするようで、教会に行くときの上等な服とパーティ用のドレスの二着は用意してもらっているが、目に見えないところ――つまり靴下と下着類はほとんど買い与えてもらえないので、はいていないことが多かった。
ぱんつと靴下はどうしても欲しい。
贅沢ではないと思う。人として、最低限、そのくらいは欲しがってもいいはずだ。
ルウが街に出て、こっそりアルバイトをするようになったのは、そうした理由からだった。