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26 縦割り組織の横やり②


「……分かりました。いったん婚約はしましょう」


 ルウにしてみれば、ディーンもアルジャーもまったく好みではない。


 しかし、ルウがディーンとの婚約中にあのダメな大人の誘いに乗るとみせかけて、無様な醜態を晒させれば、ディーンの目も覚めることだろう。なぜこんな人を尊敬していたのかと、我が身を振り返るようになるはずだ。


 ルウの親切心も知らずに、ディーンはルウを軽く睨みつけた。


「ああ。しかし、勘違いするなよ。私があなたを愛するなどと思うな。私は慎ましい女性が好きなんだ!」


 ――そんな感じ。


 生真面目で義理堅いディーンには、控えめではにかみ屋で、彼の脆いところに寄り添ってあげられる繊細で誠実な女性が似合うだろう。


「別に構いません。アルジャー様のご家族のためですからね。でも、実際に契約を交わしてしまうと解消の手続きが色々と面倒なので、婚約の日時はできる限り延ばしていただきたいですが、それはいいですか?」

「もちろんだ。私だって好きでもない女性といたずらに婚約はしたくない」

「では利害が一致ということで。ディーン様には婚前契約の交渉を可能な限り引き延ばしていただきますようお願いいたします。父は絶対に私を片付けたいはずですから、どんなに高い持参金をふっかけても破談にはしないはずです。高額を払ってほしいディーン様と、絶対に払いたくない父で平行線に持ち込んでください」

「分かった。なんとかやってみよう」


 話がまとまったところで、ルウは食堂に並べられた料理に視線をやった。豪勢なご馳走が並んでいる。ルウは実家で、人にたかって食料を分けてもらうか、あるいは街で買い食いする生活ばかりしていたので、料理人の手によって綺麗に盛り付けられた食事がたまらない魅力に映った。


「私も食べていいですか?」

「ああ。口に合うかは分からないが」


 気難しい顔でうなずくディーンと椅子を並べて、会話もなく朝食を食べた。


 ――おいしい。


 細心の注意を払って火入れされた半熟ぎりぎりのスクランブルエッグ。


 特濃のクリームを集めて作られたコクのあるフレッシュチーズ。


 パリパリの皮に包まれた香り高い脂入りのハーブウィンナー。


 二重底の素焼きの壺でよく冷やされたレモンピール入りの水。


 ルウが使用人部屋で恵んでもらっていた硬いビスケットや残り物のスープなどとは雲泥の差だ。しかしルウには気になることがあった。


「結構なお味ですが……パンがないのはどうしてですか?」

「ああ、あなたには必要だったか。昼からは用意させる」

「朝はパン食べないんですか?」

「というより、私は肉と野菜しか口にしないようにしている」

「それはまたなぜ」

「体力作りの一環だ。私は生まれつき細身の体質だからと、食事療法を医者に勧められて」

「なるほど」


 ルウは思わずディーンを見た。ビシッとした身頃の制服に身を包んでいるので、身体つきまでは分かりにくいが、着ぶくれの分を差し引いても筋骨隆々というわけではなさそうだ。


 しかし、ひ弱な印象はない。


「けっこう鍛えてますね? 毎日何百回と剣を振ってるのでは?」

「ああ……人より訓練は積んでいるつもりだ。だが、なぜそのことを?」

「剣だこがあるので。その服が細身なので分かりにくいですが、筋肉がついてそうに見えます」

「そ……そうか。筋肉がついているように見えるか」


 ディーンは嬉しそうだった。子どもみたいな喜び方だ。そんなに嬉しいのなら、と、ルウはサービスでお世辞を添える。


「はい。脱いだらすごいのでは?」



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