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万能才女の悪ふざけ ~悪女のふりはやめました。市井でスローライフします…多才で引っ張りだこでした~  作者: くまだ乙夜


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25 縦割り組織の横やり①

◇◇◇


 翌日のウィラード邸。


 ルウは朝早くからたたき起こされた。もう少し寝ていたかったが、『ディーンが食堂で待っている』と告げられ、自分の立場を思い出す。


 ――ああそうだ、私、出ていかなくちゃ。


 一晩だけの約束で泊めてもらった。早いところ出て住むところを見つけないと、今夜は宿無しになってしまう。


 ルウは身支度もそこそこに出頭した。


 ディーンはすでにきっちりと身支度を完了し、いつもの騎士の制服を着ている。偉いなぁと、適当な服に上着を羽織っただけのルウは感心してしまった。


「困ったことになった」


 彼は封筒をルウによこした。


 聖騎士団長の刻印を見て、ダメな大人の顔を思い出す。外見はいかにも聖なる理念を掲げて人々の暮らしを守る騎士団の統括です、という顔をしているのに、ぐでぐでの酔っ払いより言動が酷かったあの人だ。

 

「アルジャー様からのお手紙ですか?」

「読んでくれ」

 

 ダメな大人ではあっても、ルウにしてみれば悪女ごっこをサポートしてくれた恩人だ。一応は礼儀を払った方がいいかと思い、中身を開いた。

 

 手紙はディーン宛てだった。私的なメッセ―ジのようで、なかなかの悪筆が走り書きされている。


“ディーンよ。ソーニー嬢と婚約、まずはおめでとう。”


 書き出しの行をディーンに指し示し、ルウは聞く。


「どうしてアルジャー様がこのことを?」

「あなたをうちに連れてくる前に、ソーニー侯爵が話をつけていたらしいんだ。下の方に書いてある」


 手紙の続きはこうだった。


“彼女との婚約は私が推薦した。”


 ルウは意味が分からず、ディーンに確認を取る。


「なんでアルジャー様が? そういうのってご両親のお仕事じゃないんですか?」

「決まりなんだ。聖騎士団員は結婚に聖騎士団長の許可がいる。スパイに情報を持っていかれると厄介だから、相手に素行調査などが入るんだよ」

「えぇ……じゃあ私はダメじゃないですか。素行は最悪ですよ? 大金を積まれたらスパイに情報を売り渡すかもしれません」

「だから聖騎士団長の推薦が効いてくるんだよ」

「職権乱用じゃないですか。不正行為じゃないですか」

「上が白と言えば白なんだ……騎士団はそういうところなんだ」

「国民の憧れが聞いて呆れますね」

「申し訳ない」


 なんで彼が謝っているのだろうと思いつつ、ルウはキリがないのでとにかく先を読むことにした。


“ソーニー侯爵はお嬢様の評判が落ちてしまったことを非常に気に病んでおり、ディーンに責任を取らせるべきだと詰め寄ってきた。私も聖騎士団長という身分だから、無責任に女性の未来を暗いものとするわけにもいかない。”


 ルウはまたディーンに尋ねる。


「……アルジャー様、私に一晩付き合えとかなんとかおっしゃってませんでしたか? 私の評判一番下落させたのこの人ですよね?」


 ディーンは彼自身が責められたわけでもないのに、後ろめたそうだった。


「尊敬できる方なんだが、そこだけは私も解せない。なぜ女性絡みになると知能が猿並みになってしまうのか……」

「実は全然尊敬できないダメな大人だったという可能性はないんですか?」

「いや、剣の腕は確かだし……」


 生真面目な顔つきで悩むディーン。

 性格的にはアルジャーと正反対なのだろうなとこっそり思う。


“ここはやはり君が責任を取るのがもっとも望ましいだろう。君は将来有望で若く、女性受けするスタイリッシュな容姿をしているから、ソーニー嬢にもきっと気に入っていただけるはずだ。まったくうらやましいやら腹が立つやらだ。”


「……そう思うのなら閣下が責任を取ればいいものを」

「えぇ……私、奥様がいらっしゃる人はちょっと」

「嘘だろう? 君なら愛じ――」


 どうやら愛人と言いかけたらしきディーンは、途中で言葉を呑み込んだ。


「――いや、よそう。人を見た目で判断するなど、失礼極まりない」


 ルウは意外に思った。おととい罵倒されまくったことはもちろん忘れていない。あのときと言っていることが正反対ではないか。もしかして、と、ルウは少し心が明るくなった。


「私がこないだ言ったこと、覚えていてくれたんですか?」

「べ、別に、あなたが言っていたから覚えていたんじゃない。内容が正しいと思ったからで、決してあなたに好感を持ったわけではない。勘違いしないでいただこうか」


 ルウはふふっと笑って、手紙の続きを読む。


“あらかじめ言っておくが、ソーニー嬢を泣かせるようなことがあれば私が黙っていない。妻子を擲ってでも彼女を慰めるだろう。”


 ルウは最低値をつけていたアルジャーの評価を、さらに下げることにした。


「この人本当に神に仕える聖騎士団の団長なんですか?」

「悪い冗談なんだ……おそらく……そうであってほしい……」


“私の家が崩壊するかどうかは君のがんばりにかかっている。ソーニー嬢をよろしく頼んだ。”


 手紙はそれで終わりだった。


 ルウはひとつ大きくうなずいて、結論を下す。


「くだらない手紙でしたね。読まずに燃やすべきでした」

「くだらなくはないだろう!? 私たちの婚約に、団長閣下のご家庭がかかっているんだ!」

「いや、知りませんよ、そんなの」


 ダメな大人たちの身勝手な取り決めになど、従う必要はないだろう。


「私はもう出て行くつもりですので、アルジャー様にもよろしくお伝えください」

「待ってくれ! なぜそんなに薄情なんだ!?」


 むしろディーンこそ、どうしてそんなに真に受けてしまうのだろうかとルウは不思議に思った。


「ひとまず婚約を結ぶが、それで構わないな?」

「えぇ……」

「私だってこんなのは不本意だ! しかし選択肢がないのはこの手紙からも明らかだろう!?」

「紙飛行機にしてもいいような内容だと思いますけど」

「あなたは閣下の奥様やお子様が不幸になってもいいというのか!?」

「変な人全員を真面目に相手にしてると、そのうち身を滅ぼしますよ……?」


 彼は思い詰めるタイプらしい。おまけにひとりで抱え込む。ずいぶんと苦労しそうな人だ。他人事ながらディーンのことが心配になってきたルウだった。


 ――アルジャー様も人が悪いですね。こんな真面目な騎士様に私を押しつけようなんて。


 ルウがディーンの立場であれば、アルジャーに『馬鹿なこと言ってると奥様に告げ口しますよ』とでも言って却下するところだが、そういう方法は思いつかないらしい。それとも、思いついても実行できないほど生真面目なのか。


 アルジャーの無茶振りは、ディーンの馬鹿正直な性格をよく分かった上でやっているとしか思えない。


「じゃあこうしましょう。こんな手紙もらったんですけどって、アルジャー様の奥様に見せにいきませんか。大丈夫ですよ、私も一緒に行ってあげますし、なんなら私がひとりでやったことにしてもいいので」

「正気か!? そんなことをしたら奥様がどれだけ悲しまれるか……!」


 ルウは急にディーンをまぶしく感じて、うっと目を閉じた。


 ――ダメですね。性格がいい人すぎて、ちゃらんぽらんな私とは意志の疎通が困難です。


 もういいかな、とルウは諦めかけた。


 いつもの彼女ならさっさと見限り、逃げ出していただろう。

 

 しかし、その日はいつもとひと味違った。念願叶って、ようやく勘当された身だったのである。


 しかもルウには、ディーンを巻き込んでしまって申し訳ないという意識があった。


 ――まあ、ちょっとくらいは付き合いましょうか。私の悪女なりきりゲームに強制参加してもらったお礼です。

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