23 負け妹の憧れの騎士①
ヘルーシアは例のパーティから帰宅してすぐに、その話を父の耳にも入れた。たいそうな脚色つきで。
「……今日という今日は我慢がならん」
父はルウの素行の悪さに日々頭を悩ませていたが、その日は何か吹っ切れた様子だった。
「嫁がせよう。もう厄介払いするしかない」
――きっととんでもない男のところに売り飛ばされるのね。可哀想。
ヘルーシアは父の帰りをいまかいまかと待ちわびていたが、結局その日から数日は家に帰ってくることがなかった。
ヘルーシアは鬱憤晴らしに、姉の部屋へ行って、父がどうやら嫁ぎ先を探しているらしいと嫌味ったらしく教えてあげた。
「とうとうお父様もお怒りのご様子よ? 引導を渡されるかもしれないわね。おかわいそうに」
くすくすと笑いながら言ったが、ルウは赤い目をきらりとさせた。
「そうだといいんですけどねぇ」
そのトゲのある言葉は、ヘルーシアの心にざらついた違和感を残した。
ルウの奇妙な余裕の理由を知ったのは、週末だった。
前日、ルウをわずかな手荷物だけで馬車に押し込み、どこかに連れていってしまった父は、戻ってくるなり、さっぱりとした様子で、こう言った。
「ルウはウィラード家に厄介払いしてきた。持参金など持たせん。そのまま結婚させる。やれやれ、これでせいせいするな」
ヘルーシアは驚愕したなどというものではない。
「お、お金持ちのお年寄りに嫁がせたのではなかったのですか……!?」
「なぜそんなことをしないとならん? 若い娘なら、それだけで歓迎されてしまうだろうが」
父はルウが嫁ぎ先でも冷遇されることを望んでいるようだった。
「でも、だからって、よりによって、ディーン様と結婚させるのですか……!?」
ヘルーシアが気色ばむのを、父は不思議そうに見た。
「それがどうした?」
「どうもこうも、ディーン様の家に嫁ぐなんて、ご褒美のようなものではありませんか!」
「どこがだ? 彼は聖騎士とはいえ、公爵家の次男だ。俸禄は侯爵家と比較にならないほど少ない。その上ルウには持参金もないのだ。きっと歓迎されないだろう。うちにいたときのように、ろくに世話もしてもらえずに追い出されるかもな」
父は満足そうだったが、ヘルーシアには納得できなかった。
「でも、でも! お姉様なんかにくれてやるのにはもったいないくらいの素敵な方ですわ! それだったらわたくしがディーン様の下へ嫁げるようにしてくださればよかったのに!」
父は顔を引きつらせ、どうしようもないというように首を振る。
「やめておきなさい。あんな男、見た目だけじゃあないか。ガチガチの聖騎士で、禁欲主義だから、女性に対する礼儀もなっちゃいない。お前を大切にしてくれない男のもとに嫁いでも不幸になるだけだろう。それなら富裕な我が家の女主人となった方がずっとマシというものだ。お前は入り婿をもらって、侯爵家を継ぐんだよ」
父の言うことはいちいちもっとも正論だった。
でも、ディーンだけは絶対に姉にあげたくない。
あの銀髪の美貌の騎士は、ヘルーシアにとって憧れの男性だったのだ。
ヘルーシアは今でも昨日のことのように思い出せる。
初めての出会いは十歳のとき。姉と一緒に出席した、子どもだけの祝祭行事に、ディーンはいた。
ブックマーク&画面ずっと下のポイント評価も
☆☆☆☆☆をクリックで★★★★★に
ご変更いただけますと励みになります!




