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21 ドナドナされたその先は②

 深夜に回ってぐったりしたディーンが、


「とにかく、お帰りください」


 と言ったのを契機に、父親は本当に立ち上がった。


「ルウ、よかったなぁ。幸せになるんだぞ。資産関係についてはおって聖騎士様と話し合うから、お前は何も心配しなくていい。お前自身の幸せを第一に考えなさい」


 ルウはうっかり感動してしまった。あの父が――ずっとルウのことを無視していた父が、これほどまでに優しい言葉をかけてくれたのは、何年ぶりだろうか。これで親子の縁が切れるという解放感も相まって、ルウは泣きそうになった。


「はい、お父様……! 私、幸せになります……!」


 盛り上がっている親子に水を差すのがためらわれたのか、ディーンが戸惑っているうちに、ソーニー侯爵は鮮やかな身のこなしでさっさと帰ってしまった。


 ルウは人目も憚らずに、諸手を挙げて叫んだ。


「終わった……!! 終わりました……!!」


 ――私の悪女なりきりゲーム、これでクリアです!


 三年もの月日を費やしたので、大変だったが、感慨もひとしおだった。


 ルウはこういう悪ふざけが嫌いではない。だから悪女なりきりも、割と楽しんでいた。しかしやはり、実の父親や、同居家族ととげとげしいやり取りをするのは辛かったのだった。


「ああ、長かった、苦しかった、大変だった……! やっと解放されました……!」


 独り言を言いつつ大はしゃぎのルウを、ディーンがぎくしゃくした動きで振り返る。


 ディーンはその美しい顔を凄絶に歪ませ、絶望的な表情をしていた。ルウの父親にしてやられて、混乱と憂鬱の極みにいるようだった。


 それに反して、ルウは五月晴れのようにすがすがしい気分でにこにこしながら、ディーンに空のカップを差し出した。


「朝十時に一杯紅茶をもらったきり、もう十三時間も飲まず食わずなんです。厨房の人手が足りないようなら、お皿洗いでもしましょうか?」

「そ、それは……申し訳ないことをした。今すぐ何かを……」


 途中でディーンがハッとする。


「いや、あなたにも帰って欲しいんだが!?」


 どうやら落ち着くまでにもう少し時間がかかりそうだった。


「出て行きたいのはやまやまなのですが」


 ルウは実家から家出したあと、どうするかもちゃんと決めてある。しかし時間帯が時間帯だった。


「とりあえず今日はもう暗いので、外に放り出されてはとても困ります。明日の朝まででいいので、泊めてもらえないでしょうか?」

「それもそうか……」


 ディーンはまた途中でハッとした。


「い、いや、一度でも泊めたらあなたに手をつけたという噂が広まって、結局婚約するしかなくなるだろう!?」

「大丈夫ですよ。そんなこと言いふらしませんので」

「あなたは言わなくてもあなたの父はやりかねない。というか、絶対にやる。あれは本気だった」

「父のことなど知りません。私はもう家族と縁を切って、明日になったらここも出ていきます。でも、今はおなかがすいていて、眠いんです」


 ルウは本心を言っているつもりだったが、ディーンはなかなか納得してくれなかった。


 とうとうルウは泣き落としに入った。


「立ち上がる気力もありません。どうか助けてください、聖騎士様・・・・。私、こんな深夜に放り出されても、どこに行ったらいいか……」


 ルウはディーンにしおらしく媚びたりすがったり、泣き真似をしたり哀願したりした。


「……ああもう、分かった、食べられるものを持ってくる!」


 とうとうディーンを根負けさせ、明日の仕込みだというスープストックに少し塩を入れたものを分けてもらうことに成功したのだった。


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