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万能才女の悪ふざけ ~悪女のふりはやめました。市井でスローライフします…多才で引っ張りだこでした~  作者: くまだ乙夜


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19 負け妹の遠吠え②

「ルウ様が付き合いたいとゴネて、聖騎士団長様に圧力をかけさせたのですって! それでディーン様はいやいや付き合うことに……」

「なにそれ、最低!」


 ――どういうことなの!?


 ヘルーシアは姉を探し出して問い詰めようと考えた。会場をやみくもにうろついているうちに、若い男性の二人組とぶつかりそうになる。


「あれ? この子、ルウ・ソーニーの妹?」

「へえ、こっちは清楚な感じなんだ」

「すみません、急いでおりますので」

「待ちなよ」


 脇をすり抜けようとしたのに、前に立ちはだかられて、ヘルーシアは軽く恐怖を覚えた。


「あの、困りますわ!」

「困りますだって、かっわいー」

「俺はこっちのが好みだな」


 ヘルーシアは怖くて口もきけなくなっていた。


 これまでのヘルーシアは友人の令嬢や知人の令息に囲まれていたので、決してこのような品性卑しい人間に絡まれるようなことはなかったのだ。


 それもこれも姉のせいだと八つ当たりをしながら、助けを求めて周囲を見回してみたが、あいにく誰もいない。


「連れてこうよ」

「いいねえ、賛成。おいしいお酒あるから一緒に飲もうよ」

「わたくし、まだお酒は……」

「大丈夫だって、ちょっとくらい」


 そのとき、すぐそばの壁に勢いよく何かが突き立った。


 よく見るとそれはトランプの形状をしていたが、四辺に鋼鉄の枠がついており、鋭利に研がれている。


 何事かと来た方を振り返ると、変なドレスを着た女が自慢げな顔でトランプを両手の指にたくさん挟んでいた。


 続いて二枚、三枚と壁に突き刺さる。


「な、なん……」


 驚いている青年貴族たちに、変な女はにっこり笑った。


「皆さん手品はお好きですか? ちょうどダンスホールにマジシャンが来ているそうですが、見にいかなくてもよろしいのでしょうか。それとも、わたくしのつたない手品の方がご覧になりたい?」


 変な女が投げたトランプは、正確に男の帽子についていた羽根飾りを切り落とした。大きなダチョウの羽がひらひらと舞う。


 青年貴族たちは両手を万歳した。


「おいマジかよ、マジシャンいんの?」

「えー、俺手品大好き!」

「見にいこうぜ! な! な!」


 あっという間に逃げていく青年貴族を尻目に、恥知らずな格好の女がヘルーシアに近寄ってくる。


 断じてあれを姉だなどと呼びたくはないが、現実は非情だった。


「ヘルーシア、大丈夫? ひとりにしてごめんなさいね。あなた、話しかけるなって言うから」

「そんなことより、ディーン様と付き合うって、どういうことなの、お姉様!?」

「あら、もう知っているの? そうよ。こちらのディーン様と付き合うことにしたから」


 姉の後ろに、銀髪の男性がいた。聖騎士の印であるジャケットを一分の隙なく着こなし、芯の通った立ち姿で凜とたたずんでいる。


 ヘルーシアは姉に文句を言ってやりたかったが、ディーンがすぐそばにいるせいで、思考がめちゃくちゃになってしまった。


「あ……! の……! えっと……!」


 ――ディーン様よ、ディーン様だわ! どうしてディーン様が姉なんかと付き合うの!?


 姉は口ごもっているヘルーシアを見て、何かを誤解したようだった。


「まあ、祝福してくれるの? ありがとう。さあ、行きましょう。ディーン様も、今日はもう大丈夫ですわ。わたくし、妹を見ていてあげなければなりませんので」

「あ、ああ……しかし、今のトランプは?」

「これ?」


 姉はぴっと一枚を中指と人差し指で挟んで渡してあげていた。


「投げられるようになっているの。わたくしは悪女ですから、悪人をやっつけるのも嗜みのうちと心得ておりますわ」


 ディーンは怪訝そうな顔をしつつ、受け取ったトランプをひとしきりしならせてから、真面目な顔つきで聞く。


「投げてみてもいいだろうか」

「ええ、どうぞ」


 ディーンが放ったトランプは、壁に跳ね返って床にひらりと落ちた。


「難しいな……」

「練習すればすぐですわ」


 目の前でイチャイチャとトランプ投げの練習をするふたりを見せつけられ、とうとうヘルーシアは耐えられなくなった。


「おっ、お姉様、帰りましょう! 今日はもうここにいない方がよろしいですわ!」

「あら? そう、ではいずれ」

「あ、ああ……」


 何か色々と釈然としない感じのディーンを残して、姉はヘルーシアと馬車に引き揚げてくれたのだった。


 馬車に乗り込み、人目がなくなったのを確認してから、ヘルーシアは思うさま大きな声を出す。


「いったいどういうこと!? あんな真面目な人が、お姉様なんて相手にするわけがないでしょう!?」

「あら、お知り合いなの?」


 ヘルーシアが一方的に憧れているだけだが、わざわざ教えてやるのも嫌だったので、無視して罵倒を続ける。


「ディーン様を騙したのね、きっとそうでしょう!?」

「そうよ」


 姉が涼しい顔で言うので、ヘルーシアは姉を殴ってやりたくなった。しかし、手を振り上げても、易々と止められてしまう。


「どうしたの? ヘルーシア。そんなに怒って」

「今すぐ撤回して! ディーン様に迷惑をかけないで!」

「そうよねえ。確かに迷惑だったと思っているのよ」


 姉は物憂げにため息をついた。お化けメイクなので、気持ち悪いったらない。


「だいぶ知れ渡ったみたいだし、もう用済みだわ。すぐに撤回することになるはずよ」

「当然じゃない! お姉様なんてすぐにフラれるに決まってるわ!」

「もうフラれてるわよ」


 姉の受け答えに少しだけ気をよくして、ヘルーシアは黙り込む。心の中でひとつの決意を固めながら。


 ――絶対にお父様に言いつけてやるんだから。


 今度という今度は父親の逆鱗に触れて、どこかのひなびた貧乏貴族に嫁がされればいいのだ。


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