18 負け妹の遠吠え①
◇◇◇
一方その頃、同じパーティ会場で。
ルウの妹・ヘルーシアは荒れていた。同じくパーティに顔を出していた友人のご令嬢や貴族子息と会話のグループを作り、慰めてもらっていたのである。
今日の姉のドレスがみっともないことは、ヘルーシアの友人たちも同意見だった。
「何がいいのか全然分からないです」
「ダッサいよね、あれ」
ヘルーシアだってそう思う。
ところが周囲の人間は姉を絶賛し、第三王子までがあの古くさい衣装を褒めそやす始末。
「あんなお化けメイクと芋ドレスをありがたがっちゃってバッカみたい! あれで喜ぶのって懐古趣味のおじいちゃんおばあちゃんぐらいでしょ!? 防虫剤くさいのよ!」
頭に来たヘルーシアは、悪口をさんざんに言っていた。夢中になっていたせいで、声が大きくなってしまっていたことに気づかなかったのが失敗だったのだろう。
「何の話をしているのかな?」
真後ろから聞き覚えのある男性の声がしたとき、ゾッとした。
「ギブソン殿下……!」
彼は供の者を連れておらず、服装も先ほどよりかなり砕けていて、ちょっと見では高位貴族と分からないように装っていた。着道楽で知られた第三王子らしい遊び心だったが、そのせいで接近に気づけなかったヘルーシアは、ただひたすら青くなるばかり。
第三王子ギブソンは、竜のうろこを思わせる深い緑色の瞳で、ヘルーシアを睨みつけた。
「あれは君の姉君が、私の祖母の命日を偲ぶために用意してくれたドレスなんだけど、君は知らなかったのかな」
怒りを抑えた低い声で言われて、さらに血の気が引いた。祖母? 命日? 知らない、知るはずもない。
しかしヘルーシアも貴族令嬢のはしくれ、ギブソンの祖母(前王妃)が、平民の間に交じって奉仕活動をしていたすばらしい方で、そのために暴徒から狙われ、命を奪われたのだという経緯くらいはなんとなく知っていた。しかし、何年前のことだろうか。ヘルーシアが乳幼児の頃の話をされても、ピンと来るわけがないではないか。
「あのドレスの様式には、祖母の名がつけられているんだ。祖母が愛用していたデザインだったからね。それを忠実に再現しつつ、現王妃……つまり、私の母好みのアレンジを加えることで、新しい時代との融合を表した、素晴らしいドレスだったじゃないか」
これにはヘルーシアも、理不尽だと声をあげたくなった。『おばあちゃんの着ていたドレスなんて、普通の人は知らないわよ!』と、叫べたらどんなにかよかっただろう。
「祖母を立ててくれた姉君へのその言い様、少し配慮が足りなかったのではないかな? ああ、それとも、足りなかったのは王家への敬意?」
ネチネチと遠回しに『不敬だ』と警告してくる第三王子が恐ろしくて、ヘルーシアは泣きそうになった。
第三王子からじきじきにお叱りを受けるなど、めったにあることではない。ほとんど公開処刑に近いその説教のせいで、ヘルーシアはその場にいたほとんどの友人から距離を置かれてしまった。
ひとりぼっちになってしまったヘルーシアは、半泣きで壁に貼り付いていたが、深夜を回ったところで、さらに打ちのめされることになった。
パーティ会場のあちこちから、耳を疑うような噂が飛び込んできたのだ。
「ソーニー侯爵家のルウ様とディーン様が付き合うらしいって」
「嘘でしょう!?」




