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万能才女の悪ふざけ ~悪女のふりはやめました。市井でスローライフします…多才で引っ張りだこでした~  作者: くまだ乙夜


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17 真面目な騎士をからかいます③

「やってくれますね」

「ゲームは意外性が醍醐味でしょう? ギリギリで勝たなければ面白くないわ」

「すばらしい哲学をお持ちで」


 ディーンはなんとも分かりやすく硬い表情をしている。ルウはくすりと笑って、絡んでいくことにした。


「あら、ディーン様、いかがなさいました? 真っ青になっていらっしゃるようですけれど」

「これが青ざめずにいられるか。あなたと付き合わされるなど冗談ではない」


 ――あら、深刻に捉えてた。


 素直で真面目で四角四面。冗談の通じない性格で、なんだか生きづらそうだ。


 ――団長はともかく、この人をからかうと悪いことをしている気分になりますねぇ。


 真っ青な顔は堪能した。もう少し遊んだら種明かしをしようか、とルウが思案しているまさにそのとき、ディーンが動いた。


 捨て札の山をがさがさとかきわけ、トランプを取り出す。


 ルウが作ったストレート・フラッシュと同じ手札が一枚紛れていた。


 ――あ、種明かし用の仕込みが。


「イカサマだ! どういうことか説明してもらおうか!? ソーニー嬢!」


 ディーンが怒りを抑えきれない様子で詰め寄ってくる。


「賭博でのイカサマは重罪! この場で取り押さえてやる」


 さてなんと言い訳したものか。


 ルウが少しひやりとしつつ、打開策を求めて周囲に視線を走らせると、アルジャーと目が合った。


 野生動物は先に目をそらした方が負け。なんとなく目をそらせずにいると、アルジャーの方が先に視線を外した。ディーンを鋭く睨みつける。


「馬鹿野郎! だからお前は野暮だっていうんだ!」


 大声での一喝に、ディーンは身をすくませた。


「ソーニー嬢がこの賭けに乗り気でないことは態度にありありと出てただろうが! ここは負けてさしあげるのが粋だっていうのにお前というやつは台無しにしやがって!」

「しっ、しかし……! 彼女は私と、つ、付き合いたいと」

「うぬぼれるな! からかわれたんだよ! まるで興味がないのは見れば分かるだろうが!」


 ――見抜いてはいたんですね。


 ダメな大人かと思っていたが、少しだけ見直した。


 そしてアルジャーはカードの山をぐしゃぐしゃにして、ご破算にした。


「対戦ありがとうございました。目の覚めるような美女とこうして一席設けられただけでも至上の喜びです」

「こちらこそ。楽しかったですわ、素敵な騎士様」


 ルウはちょっと困ったことになってしまった。


 ――せっかく綺麗にまとめてくださったことですし、ここで席を立つのが一番なんですが、それでは私の悪女伝説が……


 ここはルウが男どもをバッタバッタとなぎ払い、手玉に取った――という印象にしたかったのに、手柄を全部アルジャーに持っていかれてしまった。


 ――別の席でゲームを仕切り直すのももう無理ですね。


 イカサマをする女だということが知れ渡ってしまった以上、誰も賭けには乗らないだろう。


 ――どうしましょう、手詰まりです。


 今日こそ勝負を決めるつもりで来た。手ぶらでは帰りたくない。ルウだって、あの実家で暮らしていくことに、もう耐えられないのだ。脱走するための資金は貯めたし、時期的にも潮時のはず。


 ルウはチラリとディーンを見た。彼はダメな大人からさんざんに叱られ、しゅんとしている。この上さらに追い打ちをかけるのは心苦しかったが、ルウにもルウなりの事情がある。


 ――巻き込んでしまうのは気の毒ですが……


 ルウは仕方なく、ディーンを生け贄にする案を採用することにした。悪女としての格は落ちるが、男好きの噂は不動のものとなるだろう。


「ダメ。許さないわ」


 たったひと言。でも、それだけでルウはその場を台無しにしたと感じる。


 何を言うのかと不審がる人たちをものともせず、ディーンをまっすぐに見つめた。


「大声で悪女だ、イカサマだと騒がれて、わたくしの心はずたぼろだわ。ねえ、会話もしたことがない女を噂だけで勝手に決めつけるのはよくないことだと思いませんこと?」

「それは……」


 生真面目に悩むあたりが、彼の性格を物語っている。


「お互いをよく見知った上で悪女の誹りを受けるのなら結構。わたくしも甘んじますわ。でも、このままで終わらせるなら、わたくしはあなたと、聖騎士団という団体そのものの品格を疑います」


 ですから――とルウは媚びるような上目遣いを見せた。


「わたくしとお付き合いをしていただきます」


 これでいい。


 若くて美しい男に色目を使う好色な悪女と、周囲は見てくれるだろう。

 

 ――しなだれかかるくらいはした方がいいのでしょうか……?

 

 悪女ならきっと、おそらくそうする。でも、ルウにはそこまでの勇気がなかった。これでもいっぱいいっぱいなのだ。

 

 「ふざけるな。誰があなたのような――」


 ディーンは途端に険しい顔になったが、機先を制したのはアルジャーの大声だった。


「お前、この上ソーニー嬢からの告白を断って恥をかかせるつもりじゃねえだろうなぁ!? そんな羨まし――いや、妬まし――いや、非常識なことしてみろ、聖騎士団から追い出してやる!」

「な、何をおっしゃるのですか!? そもそも聖騎士は、禁欲で……!」

「だからお前は世間が分かってないって言われるんだよ!」


 ルウは目が細くなった。


 ――禁欲って……つまり、女の人との交際禁止、って……こと?


 そうするとこの騎士団長は、禁欲主義なのに奥様がいて、その上さらに他の女の人を口説こうとしていることになる。騎士が妻子を持ってはいけないという決まりは聞いたことがないので、有名無実化している掟なのだろうが、それでも浮気はどうかと思ってしまう。


 ――ダメな大人に激詰めされて、真面目な騎士さん可哀想。


 とはいえ組織のトップにすごまれては平の聖騎士にできることもない。


 ルウはぜひとも悪女伝説を完成させたかったので、悪いとは思いつつ、満面の笑顔をディーンに向けた。


「ふつつかものですが、よろしくお願いいたします」


 アルジャーに睨まれ、ディーンは拒絶することができない。


「ほら、ソーニー嬢が待っているだろうが! 挨拶もろくにできねえのか、お前は!」

「……」


 ディーンは屈辱そうな顔つきで、ソーニーの右手の甲を乞うた。


 結局彼は、ルウの差し出した手に、恭順の口づけをすることになったのだった。


 かくして悪女とカタブツ騎士のカップルが誕生したという噂は、その日のうちにパーティ会場の隅々まで行き渡った。


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