16 真面目な騎士をからかいます②
「閣下、お名前は?」
「聖騎士団長、アルジャー・ホーク。親しみを込めてアルジャーと呼んでください」
「ではアルジャー様、カードはわたくしがお切りしてもよろしくて?」
「美しい指先を拝見しましょう」
ルウはこの日のために手に入れたイカサマ用のトランプを取り出した。古物市場で手に入れた掘り出し物だ。少々古いが、きちんと使える。
ルールは単純なものにした。チップを十枚積み、先になくなった方が負け。ベットはなし、勝った方が負けた方のチップを一枚もらう。
ルウは最初の三戦をわざと負けた。
アルジャーが自分の三連勝を誇るでもなく、ルウに気遣わしげな視線を送ってくる。
「おや、先ほどは連戦連勝だったと伺いましたが。運命の女神もあなたの美しさに嫉妬してしまったのでしょうか」
「まだこれからですわ」
四戦、五戦と積み重なり、さすがのアルジャーも鼻白んだ様子を見せる。
「こうも続くとよからぬ勘ぐりをする者も出てくると思いますが」
「あら、わたくしがわざと負けているとおっしゃるの?」
「カードがここまで偏るのは非常にまれでしょうね」
もちろんこれはルウの作戦だ。
見たところ、アルジャーはかなり場慣れしている。ルウが気を抜けばすぐに顔色を読まれて負けるだろう。イカサマをするにしても、慎重に、彼の油断を誘わなければいけない。
「じゃあ、わたくしはどうして負けたがっているのかしら?」
思わせぶりにつうっとカードを滑らせ、アルジャーの目の前に配置する。
「アルジャー様ってとっても素敵ね。わたくしも手が滑ってしまうかも」
ルウは渾身の演技でアルジャーに色目を使い――
アルジャーは六戦目の勝ちを見て、デレデレとした。
――単純。
ちゃんと通用したことにホッとしつつも、ルウは引いていた。妻子がいるのに他の女から色目を使われてデレデレするのは、かなりダメ度が高いのではないだろうか? と、素の自分が冷静に思ってしまうのだ。
ルウは及び腰が顔色に出ないように気をつけつつ、精一杯愛想のいい笑顔を心がけた。
カードゲームの腕前が双方同じなら、あとは心理戦となる。
ルウは七戦目に、余っているチップを全部置いた。
「ルール外ですが、どうしました?」
「飽きてしまったわ。決着をつけましょうよ。夜は短いのですもの」
ここで勝ち上がれるのはアルジャーだけ。ルウが勝っても、チップが八枚になるだけで、依然としてアルジャーの有利だ。
彼の油断を狙い澄まして、カードを置く。
アルジャーの背後に控えているディーンをちらりと見上げると、彼はホッとしたような、隙だらけの顔つきでアルジャーの手札をのぞき見ていた。かなり強い役が揃っているのだろう。これで勝負がつき、アルジャーの勝ちになると確信しているに違いない。
――まずはこれで一泡吹かせられますね。
手札を見せるとき、ルウのワクワクは最高潮だった。
アルジャーは頬を引きつらせ、ディーンはお化けに脅かされたかのようなリアクションで全身をビクリとさせた。
「ストレート・フラッシュ。あら、手が滑ってしまいましたわ」
ルウは笑い出しそうになるのを一生懸命にこらえていた。だって、勝ちを確信していた男たちの、横っ面をはたかれたような顔ときたら。こうでなければ面白くない。
 




