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15 真面目な騎士をからかいます①

「そちらの美しい銀髪の殿方」


 呼びかけられて騎士は盛大に顔を歪ませた。


「……誰が、女のようだと?」

「えっ、そんなこと言ってな」

「美しいと言っただろう! 今!」

「銀髪が……? キラキラして綺麗だな、と……」


 騎士が気まずそうに黙り込む。ルウが本当に銀髪を褒めただけだと何となく雰囲気で察したらしい。


 しかし言われてみれば、騎士は険悪な表情をしていてもどこか品のある顔立ちで、騎士にしては線が細く、カッコいいというよりも美人と形容したくなる容姿をしていた。


 ――女性のようだと言われるのが嫌なんでしょうか?


『美しい』という言葉に含まれる、あるかないかのかすかな『女性のように』というニュアンスに、男性社会の極地・聖騎士団で揉まれている若い騎士は苦しめられているのかもしれなかった。


「あの、ごめんあそばせ、わたくし決して悪気は――」

「そうだぞディーン、ソーニー嬢に当たり散らしたってお前が女顔なのは変わらんからな」


 思わず謝罪するルウに騎士団長が余計なことをかぶせたせいで、ディーンとかいう銀髪の騎士は真っ赤になってしまった。


「私がどんな顔をしていようと、この女があくどいことにも変わらない!」


 減らず口を叩いたかと思いきや、ルウに向かって、剣でも抜きかねない殺気を発している。


 ルウは再びムッとした。


 ――ちょっと可哀想かなぁと思ってしまいましたが、まだ喧嘩を売る元気があるようですね。


「ええと……ディーン様? わたくし、あなたとどこかでお会いしたかしら?」

「まさか! あなたのような悪女と面識などあるはずもない!」

「なぁんだ。じゃあ、話したこともない女を、噂だけで悪女と決めつけていたのね」


 ルウは騎士団長に視線を戻す。ディーンはまだ何か言いたそうにしていたが、無視して騎士団長にだけ話しかけた。


「わたくしもう宝石には飽き飽きしているの。普通の男にもね。こちらの殿方は毛色が変わっていて面白そうだわ」


 そしてルウは特訓の末に身につけた最高の悪女スマイルで言う。

 

「騎士団長様が勝ったら、わたくしを。そして、わたくしが勝ったら、この方とお付き合いさせていただきます」


 ディーンは口をパクパクさせた。身体は怒りで小刻みに震えている。


「ふっ、ふざけるな! なぜ私があなたと」

「わたくしは騎士団長様にお願いしているの。あなたは控えていて。盾持ち騎士さん」

「わっ、私は歴とした聖騎士で――!」

「ディーン。黙っていろ」


 騎士団長は片手で部下を制した。ルウをうやうやしく拝む。


「こいつは勘弁してやってくださいませんか。見ての通りの野暮天で、女性を楽しませるどころか不快にさせるのが大の得意というどうしようもないやつです」

「わたくし、今とても楽しいわ。せっかくだからこの機会に、盾持ち騎士さんに教えてさしあげたいの」


 ルウは絶好調だ。ディーンに向かって、ことさら甘い声で話しかける。


「証拠もなしに人を悪女呼ばわりしたのだから、覚悟はできているわよね? わたくしが勝ったら、本当のわたくしがどんな人間か、その目できちんと見定める義務があるわ」


 そしてルウはわざとらしくハッとして、口に手を当てた。


「それとも、ディーン様のような『下っ端』の『見習い騎士』は自分の発言に責任を持たなくていいのかしらね? そうだとしたらごめんあそばせ。そのおきれいな銀髪のお手入れでもなさっていて」


 悪女の流し目でわざとらしく騎士を煽ると、彼は簡単に額に青筋を浮かべた。


「……いだろう」

「おい、ディーン、やめろ。挑発に乗るな――」

「いいだろう! その賭け、乗った!」


 ――面白くなってきたわ。


 ルウとしては別に賭けの行方などどうでもいい。本気でディーンと付き合う気もなかった。さっきから彼は怒鳴りすぎだし、怒りすぎだ。ディーンと付き合ってもきっと楽しくないに違いない。


 ただ、大負けに負けて青ざめたこの沸点の低い騎士が、イカサマだったと知って真っ赤になるところはきっと見物だろう。


 一泡吹かせたい。その一心で、ルウは周囲に広げた扇子をひらひらと振ってみせた。


「テーブルを一席設けてくださいませんこと」


 ルウの呼びかけに周囲が迅速に動き、かくして騎士団長とルウの対決が衆人環視のもとで始まろうとしていた。



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