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14 初心者悪女にヌシが釣れ②


 唯一の頼みは、妹や継母が積極的に喧伝してくれることだ。


 それも実家を乗っ取る工作の一環なのだ。最初にルウを離れに追いやり、世話を放棄したのは彼らだったのに、ルウがなんやかんやちゃっかりとたくましく生きているのを見て、作戦を変えてきたのである。


 ――パンツを買ってくれて、ごはんをくれて、たまの買い物に使えるお小遣いがあるのなら、使用人用の賄いをねだったり、バイトしたりなんてしなくてもよかったんですけどねぇ。


 使用人の食べ物すら奪って食べる卑しい娘。


 勝手に街をほっつき歩く不良娘。


 種々様々に言われた。


 元々の評判がこれなのだから、ついでに夜間に遊び歩くだけでも効果的だろうと見積もっていたが、やはりパンチが足りなかったのだろうか。


 ――もっとこう……野良猫を棒でつついてイジメていたとか、夜中に道に油をまいてツルツルにしていた、ぐらいの酷い悪さをするべきだったかもしれませんね。


 これまでの甘い作戦はもうおしまいにしようとルウは思った。


 男から金品を巻き上げようとイカサマをしていた悪女。この噂で勝負を決めるしかない。


「こんな女と関係を持つなど人生の汚点です! どうかお考え直しください!」


 ルウはちょっとムッとした。


 ――悪女コスプレの真っ最中ですが、そこまで言われるほど酷いことをした覚えはないんですが……


 憎しみに満ちた騎士の視線を受け止めているうちに、ルウはふと母親の話を思い出していた。ルウがまだ幼いころに亡くなってしまったが、愛情深くて綺麗な人だった。


“いいこと、ルウちゃん。大事なことを教えてあげるわ。”


 母親はときどきそう言って、謎かけみたいなことを口にした。


“もしもあなたの隣人が、いちごを取る人と、ケーキを丸ごと奪う人なら、ケーキを奪う人と仲良くなさい。”


 小さなころは訳が分からなかった教え。内容の分からないことほど、心に引っかかって、後々まで覚えているものだ。


 ルウはどうしてなのかと母に尋ねた。『嫌な人』と『もっと嫌な人』なら、せめて『嫌な人』と仲良くすべきではないのか。


“なぜって、それはね――”


 記憶の中の母が美しく微笑む。もう顔立ちもおぼろげなのに、華やかで美しい雰囲気だけは覚えていた。


“どちらも敵なら、より憎たらしい方をからかった方が楽しいからよ。”


 ルウは幼い頃、ひょっとして母親はかなり変わった人なのではないかと思っていた。


 が、成長した今なら分かる。


 ルウはこの母親似だ。


 ルウは生真面目で潔癖そうな騎士を見ているうちに、むくむくとイタズラ心がわいた。


 今まで面と向かってルウを悪女だと罵倒してきた人はいなかった。この騎士は正々堂々と喧嘩を売ってきたのだから、ルウに仕返しをされても文句はないはずだ。


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