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12 今日は悪女になりきります②

 同じ賭けのテーブルについた三人の肩を、観戦客が代わる代わる叩いている。見覚えはなかったが、それぞれ貴族らしい身なりをしているので、名のある紳士たちなのだろう。


 「おい、絶対勝てよ」

 「そうだぞ。そしてもう一度ガーターベルトからコインを出してもらわないと」

 「手加減せずに全力でいけ」

 「分かってる。気が散るから話しかけないでくれ」

 

 周囲の男たちがヒートアップしている。ルウはむしろ好都合だと思った。カードゲームは冷静でなくなった方が負けると決まっているのだ。


 ルウは配られたカードにすばやく手を這わせた。


 ――使い込まれたカードですね。持ち主は自分の有利になるよう細工しています。この形式のイカサマトランプについては研究したことがありますから、本気を出すまでもありませんね。


 ルウは手先が器用で、針仕事のバイトでも『才能』がありそうだと褒められたことがある。指先の感触にも敏感なので、撫で回しているうちに、強い手札にだけ印があるとすぐ気づいた。


 目をこらして相手札と、野次馬客の顔色を観察する。ルウは勝利を確信した。


 手札がオープンになり、ルウの勝ちが明らかとなる。計算通りの結果だった。


「おい!」

「ここ一番ってときに!」

「この下手くそが!」

「まだまだこれからだ」


 ルウは容赦しなかった。連戦連勝でタネ銭を稼ぐと、周囲の注目度もうなぎ登りだった。


「驚いた! ソーニー嬢は運の女神に愛されている!」

「女神は美女がお好きに違いない」


 ――もっと言って、もっと言って。


 盛り上がれば盛り上がるほど、潔癖症な王妃の反感を買うだろう。忍耐の限界が来るまで、悪評を轟かせる必要がある。


 ルウは三人から限界まで銀貨を搾り取ると、かたわらで呆然と成り行きを見守っていた元の対戦者に、にっこり笑って銀貨のタワーを半分差し出した。


「上等のカモがいる席を譲ってくださってどうもありがとう。こちらはお礼よ」

「なんてことだ……! あなたは女神です……!」


 男性はそう言って、ルウの足元にひざまずいた。今にも靴にキスしそうな勢いの男性に、ルウは怯えつつもすかさず訂正をかける。


「あら、悪女よ、わたくし。人から巻き上げるのが趣味なの」


 ルウはけだるげに髪をかきあげた。調子づいていたため、演技にも脂が乗っていた。


「つまらないわ。もっとわたくしを楽しませてくれる殿方はいないのかしら」


 すると周囲はたじろいだ。


「お前いけよ」

「いやあ、勝てる気がしないよ。お前は?」

「右に同じ」

「なんだよ、情けねえなあ! 誰か、ソーニー嬢のガーターベルトから金貨を抜き取れるやつはいないのか!?」

「――ならば、私が」


 遠くから大きな声が轟いた。


 人垣が開けて、強そうな男の人が、部下らしき若い男性を連れて堂々と歩いてくる。三十か、それを少し過ぎたくらいの年齢。


 男性は大げさな身振り手振りで、ルウの足元に恭しくひざまずいた。


「私と一戦交えていただけませんか、ソーニー嬢」

「楽しませてくださるの?」

「もしも私が負けたら、この剣と勲章をすべてあなたに捧げます」


 周囲が再びざわざわとする。


「聖騎士団長閣下! お戯れが過ぎます!」


 すぐそばにいた若い男性が悲鳴のような声をあげる。言われてみれば、聖騎士団長も納得の貫禄だ。筋肉質の身体を窮屈そうな制服に押し込んでいる。そしてお付きの男性も、騎士らしくきっちりと制服を着込んでいた。


「わたくし剣なんてほしくないわ」

「この宝石をご覧になっても同じことをおっしゃいますか?」


 騎士団長と呼ばれた男が剣の柄をルウに差し出した。鍔や護拳に多数あしらわれた宝石は、ひとつずつ取り外して売っても一財産になりそうだ。



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