10 悪女の装いを見せましょう③
洒落者のギブソン王子はさらに続ける。
「そのドレスの仕立ても本当に見事だ。そのデザイナーを紹介してほしいな。誰が作ったものなんだい?」
「いえ、これは、わたくしが」
「それはすごい。祖母の年代のドレスを忠実に再現している。今時これほどの技術を持っている服飾師はめったにいないよ。どなたも非常に高齢化してしまって、失われた技術になりつつある」
ルウは冷や汗を感じた。
――自分で一から縫ってません、古着を拝借してちょちょっと直しました、なんて言えない雰囲気ですね。
貴族の世界で古着を着ているなんて知れたら赤っ恥である。野暮な貧乏人だと思われては誰もパーティに呼んでくれなくなってしまい、あっという間に没落しかねない。
「しかもその、現代風のオフショルダーだ。祖母の時代のドレスはバックスタイルに優雅なプリーツのあるローブを羽織っていたものだが、取り払ったことで、一気に軽やかな印象になった。現代でも通じるすばらしいデザインだよ。よくアレンジしてくれた」
「過分なお言葉ですわ、殿下」
ルウは取り繕いつつ、ギブソンと目を合わせるのを微妙に避けた。
「君のたゆまぬ研鑽と、驕ることのない心ばえに賛辞を送りたい」
ギブソンはルウの手を取った。敬意を表現するようにやわらかくくちづける。
「そして深い感謝を。君のドレスが、今日が何の日か、みんなに思い出させてくれた」
涼しい顔をして小芝居をしていたルウも、これには面食らった。
――え、何の日?
ルウは本当に知らない。しかしそれを真っ正直に言うべきでないということは肌で感じ取っていた。
――この空気、ちょっとまずいですね。そもそも私はドレスを自慢しにきたわけじゃないですし。
これは悪女のコスプレである。この観衆にも、ルウ・ソーニーは悪女だと決定的に印象づけるためにやってきた。
――こんなとき、悪女はどうするべきなんでしょうか?
分からなかった。しかし、いつまでも黙っているわけにはいかない。
ルウはせめて悪女に見えるように、つんとした態度でギブソンに流し目をやった。
「あら、皆様覚えていらっしゃいましたわ。ただ、軽々しく語るべきではないと口を閉ざしていただけ。わたくしは慎みのない悪女ですから、そんなこと構いませんけれどね」
ルウは扇子をばっと広げて、おほほほ、と笑った。
――これで、悪女っぽく見えたでしょうか?
ギブソンは苦笑した。
「では、そういうことにしておこうか。本当に今日はありがとう。あなたのおかげで、今宵は誰もが祖母を偲んでくれることだろう」
――結局、何の日なんですか?
ルウはとうとう聞けずじまいで、妹と一緒にギブソンを見送った。
ちなみに、ルウがこの日は王太后――つまりギブソンの祖母の命日だったと知ったのは、もっと後のことである。
妹は顔を真っ赤にして下を向いている。
「えーと……ヘルーシア? 大丈夫?」
心配しているふりをしつつ、ルウは内心で、けっこうほくそ笑んでいた。ギブソン王子のおかげでだいぶスカッとさせてもらった。
「……何でもないわよ! ギブソン殿下も、そんなお化けみたいなドレス褒めそやしちゃってバッカみたい! 仲間だと思われたくないから、今日はもう話しかけないで!」
「あ、でも、ひとつだけ。今日って結局、何の日なの?」
「……っ、知らないわよ! 馬鹿!」
ヘルーシアはさっさとダンスホールに消えてしまう。
――行っちゃった。ひとりで大丈夫かしら。
付き添いのゴディバはおそらく別室で奥様方と話し込んでいる。ひとりぼっちでうろうろするのはあまりよくないが、話しかけるなと言われてしまったことだし、放っておくしかないだろう。
ルウとしても今日の目的はヘルーシアへの嫌がらせではなかったので(それはそれで楽しそうだったが)、あまり構ってもいられない。
いよいよルウは目的を果たすために行動を開始することにした。
今夜の目的は、悪女の異名を轟かすことなのである。
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