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プロローグ~後悔してももう遅い~

 ウィラード邸には現在、居候がいる。悪女と名高いご令嬢だ。自ら『悪女ですから』と名乗りを上げては何やら奇行に走っているが、悪女らしいことは何もしていないような、そんな少女だ。


 ディーンが彼女と初めて出会ったのは夜会でのことだった。濃い化粧と型破りなドレスで人の目を引く彼女のことを、周囲の人間が盛んに噂していた。あれがルウ・ソーニーらしい。ソーニー侯爵家の? そうだよ。裏の社交界で色んな男と付き合っているらしいっていう。


 噂だけはディーンも耳にしたことがあった。ソーニー侯爵家には娘がふたりいて、清廉な妹が、姉の夜遊びに心を痛めているのだとか。


 ディーンはそうした人間が何より嫌いだったので、彼女とは関わりを持ちたくなかった。


 ところがどうしたわけか、結婚を前提に付き合い、同居を認めることになってしまったのである。


 初め、どうしようもない女性だと思った。手頃な肩書きのディーンに言い寄ってくる女性は多かったので、きっと彼女も地位や財産目当てに擦り寄ってきたのだろうと思い込んでいた。


 しかし。


 意外なことに、濃い化粧を落としたあとの素顔は無垢であどけない印象だった。


 意外なことに、ディーンに色目を使ってくるようなこともなかった。


 意外なことに、普段の服装は質素とも言えるほどだった。


 意外なことに、掃除洗濯も嫌がらずに行っていた。


 意外なことに、用意してくれた朝食はディーンの体調管理を考慮した上で、おいしく調えられていた。


 ――この娘のどこが悪女なのだろう。


 疑問を持つまでにさしたる時間はかからなかった。


 ――外見で誤解されたのだろうか。


 なるほど確かに、ルウ・ソーニーは不思議な魅力のある娘である。いかにも汚れを知らなそうな面立ちなのに、時折ドキリとするほど色っぽい顔をしてみせる。都合が悪くなっても、ふふっと微笑んで誤魔化す術を知っており、よく光る瞳は、ちらりとでも目が合えば一瞬で心を鷲づかみにされてしまうような、ずるい魅力を秘めていた。しなやかな細い腕から情感たっぷりにひらひらと振り回される手のひら、指先などは蝶が舞うように軽やかで、均整の取れた身体は俊敏な猫を思わせた。


 これは惑わされる男がいてもおかしくない、と、女性が苦手なディーンでさえ思う。


 しかしこれがとんでもない悪女だと言われると、違う気がしてならないのだ。


 ――彼女は一体何なんだ……?


 普段着は庶民のようなワンピース。耳には少々素行の悪い娘のようにいくつかのピアス。爪を赤く塗り、折り目正しい言葉遣いの端からときどきこぼれ出るアクセントは下層階級のそれ。


 悪女が持つような華やかでゴージャスな雰囲気はかけらもない。彼女はどこからどう見ても、下町の娘だった。ディーンも薄々そのことに気づいていたのに、勝手な思い込みで悪女と決めつけ、ひどい言葉を浴びせてしまった。


 だから、せめて謝ろうと決意した。


 しかし――


 その日に彼女が行方不明になってしまうなんて、どうして予想できただろう。


 人さらいか、自主的な失踪か。あるいは誰かとトラブルを起こして危害を加えられたのかもしれない。


 無事でいてほしいと思うディーンをあざ笑うかのように、彼女の消息は一向に知れなかった。


 それから何日も、ディーンは彼女を捜し歩くことになった。


お久しぶりです。本日より一ヶ月ほど連載予定です

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