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工房

デザートラットが父、エミリオに切り捨てられてから数日。

グラートは領地のウミディータ村に来ていた。


レンガで建てられた家が立ち並ぶウミディータ村には屋敷で働くイルヴァの実家もある。

グラートは村で唯一の工房に来ていた。


「やあ、ルカ。元気にしてる?」


「どうも、グラート坊っちゃん。元気ですよ。

今日は何用ですか?」


挨拶を返したのは工房主のルカ。ヴェスヴィオ男爵領唯一の職人で木工から金属加工、更に大工までこなす器用名人だ。腕が良いのになぜこんな田舎にいるのかグラートには理解出来ない。


まあ、彼がいるおかげでグラートの娯楽も幅広がる訳なのだから問題はない。


「今日は、魔石を加工してもらいたくて来たんだ」


今までコツコツと貯めたデザートラットの魔石を出すグラート。


「これは、デザートラットの魔石ですか。

エミリオ様に貰ったんで?」


「違うよ。俺が狩った分だよ」


「はあ〜。よく集めたもんで」


「この魔石とルビードレイクの牙で何か作れないかな?」


「急に何かって言われても…。

というか、ルビードレイクの牙ってエミリオ様たちの戦利品では?

加工に使っても良いんですか?」


具体案の無いグラートに呆れるルカ。


「父さんから剣の修行を頑張ったご褒美なんだよ。

ルカに加工してもらえって言われてる」


グラートの言葉にピンときたルカ。


「ああ!以前、エミリオ様から坊っちゃんが加工依頼に来るかもしれないからよろしくと言われましたね。

このことですか」


「多分ね。

それでどうかな?なんか作れる?」


グラートに問われて改めて素材を見るルカ。

デザートラットの魔石が12個、ルビードレイクの牙が2個。


S、A、B、C、D、E、F、Gのレア度で表すと魔石は最底辺のG級、牙は上から3番目のB級。

素材のランクに差があるので中間くらいの素材が触媒に欲しいところだ。

何かないかと自分の工房を見回すルカ。


レッドスライムの核(G)、レッドジャッカルの骨(F)、デザートスコーピオンの甲殻(E)、火の魔石(D)、砂漠の薔薇(C)、潤いのサボテン(F)、ソードスネークの剣尾(D)。


ルカはソードスネークの剣尾を手に取るとデザートラットの魔石とルビードレイクの牙の横に並べてグラートを見る。


「坊っちゃん、今、腰に挿してるナイフの強化なんてどうです?」


「俺の剣の強化?そんなことできるの?」


「ええ、もちろんです。

強化素材はここにある3つで揃っていますし、坊っちゃんも使い慣れたナイフが頑丈で強くなる方が良いでしょう?」


少し考え込むグラート。

グラートが使用しているナイフはエミリオから貰った鉄のナイフだ。

品質は良く、荒野の探索を始めた時に貰ったが今まで刃こぼれもする事なく、魔法の発動媒体の指輪と共にグラートの相棒だった。


「いいね。お願いするよ。お金はいくらかかるかな?」


「分かりました。すぐに出来るんで少々お待ちを。

ああ、お代は不要ですよ。エミリオ様から前払いで十分貰ってます」


エミリオの先回りに苦笑するグラートしながらナイフをルカに渡す。

ルカは強化素材を全て粉にすると魔法陣が描かれた布を取り出し、ナイフを中心に、粉をその周りに置いて魔力を魔法陣に流す。


合成魔法陣だ。

別々の金属の性質を持つ未知の合金の元を探るために編み出された魔法の副産物、合成魔法。

今や合金(レーガ)帝国が他国へ誇る合成の魔法を使いやすくするために魔法陣を布に焼き写した物だ。

使用にはライセンスが必要で、使える者は大都市のお抱えになってもおかしくない貴重な存在だ。

ますます、ルカの存在は謎になるが、今のグラートには自分のナイフのことの方が最優先事項だ。


「出来ましたよ。紅火のナイフです。

火属性付与と耐性が付きました。魔石が組み込まれたんで魔法の発動媒体になりましたし、フレアバレットくらいの魔法なら切れますよ」


「え。発動媒体ってそんな簡単に出来るの?俺の指輪の存在意義…」


「魔石を持ってきたのにそのつもりじゃなかったんですか?

それに媒体が2つあっても良いでしょう」


ルカの言葉にそれもそうかと納得するグラート。

ついで言うと、魔石組み込みには特殊な鍛治技術か合成魔法が必要であり、ルカだからこそ簡単に出来たのだ。

普通の工房に魔石を持って行っても装飾や金銭にしかならない。

そして、魔法属性が付いた武器は通常、武器としての役割と発動媒体としての役割をいずれかに支障が出るが、十全に発揮できる場合、魔武装と呼ばれ剣に分類されるものは魔剣と呼ばれる。


ここに新たに魔剣が誕生した瞬間だった。


なお、本人たちに自覚は無し。


グラートがルカに礼を言って、家に帰るとエミリオとセレーネに会った。

エミリオはグラートのナイフの変化に気付き、


固まった。

ダンジョン攻略者のエミリオは魔剣の希少性を理解していたのだ。


セレーネは固まったエミリオを不思議に思い、エミリオの視線の先を見やる。


セレーネは思考が停止して、倒れた。ダンジョン攻略者の(以下略


突然の両親の奇行にグラートはイルヴァとライモンドを呼び、介抱してもらう。

この2人は魔剣を見たことがないのでなんともなかった。



後日、エミリオとセレーネはグラートからルカに魔剣を作ってもらったと聞き、自分達が持つ最高の素材を持ってルカを訪ねた。



ヴェスヴィオ男爵家に強力な魔武装が増えたのだった。

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