表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/33

33.夢の殻より出でて

「こら! 山羊の肉(マンシェール)はもっとよく噛んで食べなさい、ドゥルガー」

「そんなに慌てなくても、誰も盗りゃしないよ」

「そんなことない! ルチヤなんかあたしのぶんまで食べそうな勢いなんだもん」

「ちょっと! そんなひどい食べ方してる、あたし?! あ、そこの花椰菜(フルコピ)天婦羅(パコーラー)は貰うからね!」

「むー、じゃあ人参の牛乳煮(ハルワ)はあたしの!」

「……確かに、最近少し食べ過ぎの傾向はあるな。控えた方がいいと俺は思う」


「結局、ルチヤの姉ちゃんが『戦闘』をしてシルティ嬢ちゃんが『勝利』を掴むとこまで、当たってたわけだ」

 ヴィロークは『真珠の森(ムルガ・ヴァナ)の羚羊亭(・サドラトナ)』にて、普段より少々豪華な食事を大勢で囲む姿を、少し離れた位置から眺めていた。『英雄王の試練(ミトラ・スムルティ)』のカードのうち、二人が未来の暗示として引き当てた二枚を、指先でつまんでは弄んでいる。


 あの地底世界での対峙の後、シルティは『賢王の柱(パーラ・スターヌ)』をドゥルガーの翼を狙って撃ち落とさせた。スーリヤから聞いていたことではあるが、翼はアプサラスの魔力が結集している箇所でもある。その部分だけを封印したことで、ドゥルガーの力をできる限り抑え、意識のほうを切り離し地底から連れ出したのだった。

 数日の間は、翼をもがれた背中の痛みに苦しんでいたドゥルガーではあるが、今はこの通りの旺盛な食欲を発揮している。


「今のところ、わたしがあなたのお姉さんになってあげる。で、ルチヤはわたしのお姉さんみたいなものだから、大姉さんね、わかる?」

「うん、シルティはちい姉さんなのね」

「そうなんだけど、ルチヤは最近いい人ができたみたいで男にうつつを抜かしてるから、そこは空気読んであんまり邪魔しないように、頼り過ぎないようにね」

「うん、それがダートゥなのね、だんだん解ってきた」

「ちょっと、そんなことまで教えなくていいから!!」


真珠の森(ムルガ・ヴァナ)の羚羊亭(・サドラトナ)』では、ドゥルガーの素性はごく一部の幹部を除いて伏せられている。彼女の監視を兼ね、いまだ不安定なアヴァニの地を時おり調査するために、ガーナ傭兵団は存続を許されることとなった。


「ねえ、じゃあヴィロークはどうなるの?」

「ああ、アレは……ギャンブル好きのダメ親父?」

「おい、勝手に俺を子持ちにすんなって!!」

「……お父さんは、ダメ。叔父さんなら許す」

「あ……そだね。お父さんは、ちゃんといるもんねー……」


 ともあれ、ヴィロークの師――王宮付き占者アヴァロークの予言した『世界の破滅』は回避されたのだ。今はしばらく見守るほかはない。天女アプサラスらが遺した希望の娘たち――アプサラスの遺産を。


〈完〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ