23.天空へと至る道
「いやーもう二度と来たくない。宝珠なかったら来る気しない」
「落ち着いて、ルチヤってば……」
休憩時こそ宝珠の結界で快適さを保っていられるが、前人未到の領域に――いや、転移魔法陣が敷かれている時点で既に到達者は何人かいるわけだが――踏み込んだルチヤ達は、息も絶え絶えに山頂を彷徨いなんとかそこへ辿り着くことができた。冷えはもちろんのこと、空気の薄くなる気配もしみじみと痛感し、着々と”虚空の領域”へと踏み込みつつあることが実感できる。
「……まぁ、よかったじゃねぇか。群れの怪物やら魔物やらに出くわさなくて」
「そういう連中もいないってのが、逆に堪えるわーって感じ」
ヴィロークなどが減らず口を叩く一方で、ダートゥは黙って周囲を見渡していた。
「どうかした? ダートゥ」
「……いや、良質の岩塩層や貴重な薬土も見かけるんだが、どれだけ持ち運べるかと思うと望み薄なのが気が滅入ってな」
「そんなものに注目できてるだけですごいわよ……」
過酷なクシ砂漠の広がる北西部出身だけあってか、ダートゥは何事に関しても忍耐強い。
「ん、いや……あれは違うか?」
ダートゥはうっかり岩塩塊と見間違えそうになったものを指さす。どうやら件の巨大なレムリア水晶の碑のようであった。
「……間違いない。他の水晶が共鳴してるわ」
こういったものに人一倍敏感なシルティが、水晶を中心に二匹の獣に雪を掻き分けさせると、小さな水晶塊がどころどころに埋められたり、真言を刻んだ小岩が規則的に並べられていることに気がついた。
「これが、”空の宝珠”へと通じる道……なのよね」
緊張気味にルチヤが呟くと、はらり、と何かが落ちてきた。金茶色の羽根。翼の護符に使われるものと同じだ。
天を振り仰ぐと、大きな影に視界を遮られた――天を飛翔する金翅鳥。アプサラスの眷属とされる、遙か天空にのみ棲息する生き物だ。
「待って!」
金翅鳥が遠ざかろうとしているのを見て、慌ててルチヤは声を張り上げた――その声が響くや否や、レムリア水晶で描かれた魔法陣が淡く光り、澄んだ音を奏で始めた。
魔法陣の中に落ちた金茶色の羽根も、強い光を放ち始めている。これは転移の魔法を使う際の前兆に似ていたが、もっと強く、激しい。一度身体が浮き上がるような浮揚感の後、急降下させられるような衝撃を受け――そして、ルチヤ達の記憶はそこで途絶えた。




