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満漢全席  作者: やゐゆゑよ
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「四階の国際交流の事務所でお菓子をもらっちゃったわ」

 <お散歩>から帰ってきた先輩は、事務所に戻ってくるなり、両腕に抱えた数々のお菓子を自分の事務机の上に広げた。

 今は就業時間内で、田中ミヅキは本部に提出予定のデータを入力していた。期日が今日の一五時までと切られているので必死だ。先輩は表計算ソフトが使えない。この手の作業はすべて田中の仕事になってしまっている。


 田中は以前、先輩に表計算ソフトの使い方を説明したことがあった。

 セルのことを「この四角」と言い替えて説明した。「アタシ日本人なのー」と言ったきり話を聞く耳を持たなかったのだ。田中はあえて、名称は正確に覚えた方が後々楽ですよ、と言わなかった。田中のために嫌々ながら覚えやるのだと態度に示していたし、田中自身、自分の作業を軽減するために数字を打てるようになるだけでいいと思っていた。

説明後、セル<この四角>に数字を打ち込むだけの単純なことだからと説き伏せて一度やらせてみた。

 本部から指示のあったことだけをやればよかったものの、「こっちのほうが早いわよー」と不必要な<工夫>をし、「こっちのほうが見やすいわ」とひとりよがりな<改良>を加え、見るも無残に跡形もなくなった報告書の雛型は元に戻すには多少の手直しではすまないレベルの手間が必要だった。結局、本部に状況を伝え、本部に保存してあったバックアップデータを活用することになった。

 もちろん、締切の一五時に間に合わなかった。状況を説明した上司に「出来ないとわかっている者に仕事を任せるな」と田中がたしなめられた。たしなめた上司も大変とは思うけどうまくやって欲しいとすまなそうに付け加えた。先輩の行跡は把握しているのだろうと察せられた。


 それ以降、先輩は表計算ソフトの作業に係わらない大義名分を得たつもりらしく、すべて田中に押し付けた。今日も田中が一人で作業をしている間、

「ミイちゃんが相手をしてくれなーい」

と階下の国際交流団体の事務所や三階の清掃担当者の詰め所に<お散歩>に行った。本人は見回りと情報収集に行く。と言ってでかける。


 田中と先輩が詰めている事務所は五階にあった。

 二人が管理するのはこのフロアだけだ。三階と四階にもそれぞれ別の管理者がいる。当然先輩が三階四階に見回りに行く必要などない。

 <情報収集>と称し、清掃担当者が定期定時に来るたび捕まえて長時間にわたり話し込む。傍で見ていて、もういい加減仕事の邪魔をしないであげてほしいと思うくらいだ。

 先輩が三階や四階で<見回り>や<情報収集>に励んでいる間、田中は事務所でPC画面に向かいながら、本来の事務所の仕事である来客応対や受付、電話対応を同時進行でこなしていた。

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