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美魔女

 係決めの話に戻ろう。


「それでは各係の希望者ごとに座っていただきますので、各自ご移動をお願いします」

オムツ替えから戻って来た子沢山の着席を待って、横尾教諭が保護者に指示を与える。


 巨大かぼちゃ収穫遠足係、バザー係、お遊戯会係、運動会係、餅つき係、ベルマーク係のそれぞれの希望者は、定められた場所に移動を始めた。


 ユウくんママと子沢山は勿論ベルマーク係を希望し所定の位置に着席する。ステージに向かって一番右側のひっそりとした席であった。しかし、この行動が近い将来両者の運命を大きく左右する事になろうとは、彼女らはまだ知る由もなかったのである。


……ベルマーク係の方角へ歩いて行くユウくんママと子沢山の後ろ姿に熱い眼差しを向ける人物がいた。


 根元まで余すところ無くダークブラウンに染められたロングの髪は先端が緩くカールし、耳朶(みみたぶ)からは大振りな金色のピアスがぶら下がっている。眉の形は完璧に整えられ、シミ一つ無い弾力に富んだ肌は美容皮膚科への通院と計算し尽くされたナチュラルメイクにより明るさと清潔感に溢れており、カラーコンタクト装着で手に入れた目ヂカラは見るものを石にでも変化させてしまいそうな程の凄みを感じさせる。


 真っ赤な地に虹色の三本線の入ったスマートな高級ジャージに身を包み、ジム通いで鍛え上げた引き締まってスリムな身体を周囲に見せつける様にしゃなりしゃなりとウォーキングする姿はモデルさながら。


 彼女は長い婚活の末に、会社役員である8歳歳上の夫を捕まえた。彼女の絶対に譲歩出来ない条件は「年収八百万以上」。共働きするくらいならば、独身でいた方がマシだった。


 年収が希望以下⁈ 無理! そんなの、欲しい化粧品も買えないみたいな……。


 12年間に及ぶ長く苦しい婚活は実を結び子宝にも恵まれ、彼女は比較的手のかからない長女を実家に預けつつ美ボディーを作り上げる事に専念した。


 娘をマッスル幼稚園に入園させようと決めたのも、保護者に与えられる「マッスル幼稚園併設ジム使用し放題」という権利に魅せられての事である。


 42歳の彼女は、子沢山とは正反対に10歳以上も若く見られる事に誇りを感じていた。以下、彼女を「美魔女」と記す事にする。


 美魔女はママ友を欲していた。単なるママ友では無い。自分の事を無条件に賞賛し崇め奉ってくれるママ友である。夫は仕事に忙しく、いくら努力して己を磨いても全く変化に気付いてくれない。或いは気付いても触れる事すらしない。

「髪切った? ツヤツヤですねぇ、美容院どこですか?」

「まぁ高そうなお洋服! どこのブランドですか?」

そんな賛辞が、喉から手が出るほど欲しいのだ。


 講堂に足を踏み入れてから二時間足らずで美魔女が目を付けたのは、明らかにブランドものではない量産品のスーツを身につけた、優柔不断で意思の弱そうなユウくんママと子沢山であった。


……あの二人、私の腰巾着に適任ではないか!


 美魔女は当然の様にベルマーク係を志望した。

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