クラス係は嫌だ……クラス係は嫌だ……
ひらめ組のクラス担任の一人、横尾教諭が話を進める。
「皆様、配布したプリントに目を通して頂けましたでしょうか」
縦も横も大きな体脂肪率9パーセントの巨躯を誇る横尾教諭の言葉には、有無を言わせぬ迫力があった。
「まずはクラスのまとめ役、クラス係の希望者を挙手にて確認したいと思います。どなたか引き受けて下さる方、いらっしゃいますでしょうか?」
すると、二人の女性がすぐさま高々と手を挙げた。何の迷いも無い堂々とした所作であった。上背こそ異なるが、どちらも筋骨隆々たる体躯の持ち主だ。
「では、お二人は前へお願いします」
横尾教諭が声を掛けると、二人の女性は立ち上がり教諭の隣へと進み出た。
「クラス係は三名ですので、あとお一人受けて下さる方はいらっしゃいませんか?」
保護者達はシンと静まり返っている。しばらく様子を伺い、横尾教諭は口を開く。
「それでは残りの一名は後ほど決定するとして、お二人に自己紹介をしていただきます」
立候補した二人の女性はそう促され、各々次のように自己をアピールした。
白い道着を着用しキリリとした表情の女性が最初に口を開く。
「押忍!! 初めまして。谷口杏の母親です。私自身もこちらの幼稚園にお世話になったので、何かお役に立ちたいと思い立候補致しました。私は夫とM町二丁目で空手道場を営んでおります。もしご興味ありましたら、気軽にお立ち寄り下さい!」
そこまで言うと谷口氏はおもむろに懐から一個の梨を取り出した。
「ハァンッ!!!」
掛け声と共に梨は彼女の右手の中でグシャリと潰れ、えも言われぬ芳香が辺り一面に立ち込める。
「この様に、どなたでも梨を握り潰せるレヴェルまで懇切丁寧に指導させていただきます! 是非どうぞ! ありがとうございました‼︎」
谷口氏は満面の笑みでお辞儀をした。
次に谷口氏の隣に佇む、華やかな深紅のレオタード姿のやや小柄な女性が喋り出す。
「朝田海斗の母です。私は学生時代から体操をやっておりまして、息子にもスポーツを習わせたいと思いこの幼稚園を選びました。ひらめ組のたくさんの保護者の方々とお知り合いになり、共に心身を鍛えていく仲間として、より高みを目指したいと思っております」
朝田氏は突然走り出し、壁に到達する直前で立ち止まりこちらを向いた。それから助走を付け、後方2回宙返り2回ひねりを軽やかに決めた。
「皆さんも、私と一緒に栄光への放物線を描きませんか⁉︎」
見事な着地と同時に叫ぶ。
「お二人共クラス係にふさわしい、素晴らしい演技をありがとうございました。席にお戻り下さい」
横尾教諭はこう締めくくった。
癖が非常に強そうなこの二人と、果たして一年間やっていけるのか……?
衝撃のパフォーマンスを目にした他の保護者達はそう自身に問いかけ、次のように結論を出した。
クラス係は嫌だ……クラス係は嫌だ……
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