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ねこと原点

作者: ミコト

今日もレストランオープンに向けて準備をしています。

数をこなせばやはり慣れてくるもので、今では時間に余裕もできてくる程です。


(……あの人は何時頃に来るでしょうか……早く会いたい)


などと絶対に口には出せない浮ついた事を考えながらオープンまで少しの休憩を取ります。

その時でした、なんと「あの」扉が光り輝いていたのです。

それはつまり、誰かがこのレストランにやってくるという事です。

その事象自体には慣れたものの、誰がどんな姿でやってくるか想像がつかないので、どうしてもねこは身構えてしまいます。

そして扉が開き、そこには……

少女がいました。ねこと同じくらいの人間年齢でしょうか?

しかし特徴的なのがそのおしりでした。非常に魅力的で魅惑的で、同じ性別のねこも羨むヒップです。思わず見つめてしまいした。


「……あ、あの……っ!」


「はい、いらっしゃいませ」


「あ、ありがとうございます。……じゃなくてですね」


「いかがされましたか?」


「あの……瞬きくらいしてくれませんか……じゃないと」







「私、見られてたら動けないんです……!」





首折らないならいいですよ。

と言ってねこはゆっくり瞬きをしました。彼女は気づけば席についており、メニューを見ていました。


「わあ……素敵なメニューがたくさん……」


「ありがとうございます」


「トカゲさんやこちょこちょさんに聞いた通り……とても素敵……」


「嬉しいです」


「えっと……オレンジジュースください……」


「かしこまりました」


しかしこれ、できるだけ彼女を見ずに話さなくてはならないんですよね。難しいです。




「お待たせしました」


「わあ……ふふ、綺麗なオレンジ色……」


「自慢の果実を使っていますから」


「やっぱり……じゃあ、いただきます……」


そういって彼女はストローでちゅーちゅーとオレンジジュースを飲みます。その様子はとても愛らしく、普段の彼女の凶暴さ、強靭さは想像がつきません。


「……本日はどうやってこちらへ?」


「…………考え事を、してたんです」


彼女の表情が少し暗くなってしまいました。

それはまるで罪悪感、あるいは許しを乞うような影のある表情でした。


「考え事、ですか」


「はい……そしたら私のコンテナの中に……急に扉が現れて……直感で分かったんです、トカゲさんとこちょこちょさんが話してた扉だって……」


どうやら米本部では噂がそれなりに広まっているようですね。口コミはいい宣伝効果があります。今後に期待出来ますね。

などと、今この場では口が裂けても言えるような雰囲気ではないのですが。


「その考え事、良かったら聞かせて貰えませんか?お手伝いしますよ」


「……いいんですか?」


「はい、同じアノマリーのよしみです」


「ふふ……ありがとうございます……」


彼女は一度ジュースをぐっと飲み下し、大きく息を着いて話し始めた。


「……私は……元々は単なる人形、ドールでした。とある人間の方が私を生み出して……精巧に人間に近く作り上げ、さらに『意味』を与えてくれました……私の姿形は母性や原点回帰を意味するようで……そ、その、は、恥ずかしいのですが、おっ……おしりの部分は……こ、子どもらしさを表すように強調されてるんです……私は見た人に安心感や温かみを感じてもらい、精神安定や調和、ストレスの軽減を与えるよう工夫されていました……私は見られることが何よりの幸せであり使命でした。たくさんの人が私の前に訪れ、私を見て、私を眺めて、心に平穏をもたらしていました。……ですが……ですがある日の、事です……」


ここで彼女はまたさらに一段と表情を曇らせました。

目には涙をうかべています。


「……ある日の事です、悪い人がわ、私に……『いたずら』をしました……その……わ、私の……おしりや……その周辺に……男の人たちが……」


……欲望、ですか。

人間にはアノマリーと違い、根本に眠る欲望があります。

食欲、睡眠欲、etc.

多くの人はそれを上手くいなして押さえ込み自分自身で上手く処理していますが、中にはそれが上手くいかず暴走する人もいます。

欲望を他者にぶつけ、後先考えずに行動する姿はまさに餓鬼畜生のようで、我々よりもよっぽど異常な存在のように思えます。

そんな歪んだ身勝手な感情をぶつけられた彼女は、きっと……


「……私はその日から……視線が……みんなの目が怖くなったんです……見られれば見られるほど内蔵がぐちゃぐちゃになりそうなくらい気持ち悪くて……あの時の……身動きができない私を汚したあの人たちを思い出して……今まであれだけみんなの視線を幸せに……感じていたのに……それなのに私は…………」


そう、歪んだ愛情をぶつけられたらその人だって歪んでしまうのです。

まっすぐにまっすぐに生きようとしていても、隣から強くつつかれるとそこで大きく曲がってしまうのです。


「私は願いました……願ってしまいました。見ないで欲しい、1人にして欲しい、見られるくらいなら、いっそその前に……そして……気づいたら私は動けるように……力も強くなっていました……」


一度歪んだ心は中々まっすぐに育ちません。

彼女もその例に漏れず、手に入れた力で結果……


「……私は反省しました。多くの人を、『見られる前に』……えいっ、てしてしまいました……」


えいっなんて可愛いものでしたっけ。


「反省した私は……それから財団の人達のもとで……なんとか罪滅ぼしをしたいと思い……私は今財団の機動部隊でお仕事してるんです。素早さとパワーと耐久力がSCiPの中でもトップクラスだからって色んな危険な調査に向かってます。でも私……今幸せです……たくさんの人と関わることが増えたお陰で……少しずつ、少しずつ、またみんなに見てもらいたい、そう思える自分を取り戻せている気がして……」


「それは、それはとても良い事ですね。あなたはとても魅力的ですから、いつか真剣に向き合ってくれる素敵な方と出会えますよ」


「あ……ありがとうございます……!」


顔を真っ赤にして俯いてしまいました。可愛いですね。


彼女はいつかきっと立ち直れます。

そしてその存在が、愚かな人間への警鐘になるはずです。一体どちらが危険な存在なのか、自分立ちを見つめ直すキッカケになると信じています。



「ねこさん、オープン準備は順調ですか?レポートが一段落着いたので良かったらお手伝い……ん?まだ開いてないはずなのにお客さん?」


「あ……」


そんな話をしていると、なんと彼が来ました。こんな時間に来てくれるなんて珍しいです。早く会いたいねこの気持ちが通じたのでしょうか。大好きです。


「えっと、彼女は……そうですね、ねこの友人です。オープン前に少し話したくて招いていました」


「そうなんですか……えっと、こんにちは」


彼はねこのとっさの説明に納得し、彼女の方を向いて挨拶をしました。


「……」


しかし彼女は彼を見たまま固まってしまいました。

あ、そうでしたね……


「あ、その方は人に見られるとどうも緊張してしまうので、良かったら視線を外してあげてください」


「そうだったんですか、すみません」


彼は目を伏せて視線を外してあげました。

ですが、彼女はまだ固まったままです。


「……素敵」


ねこが変に思い声をかけようとしたその時、ぽつりとつぶやきました。


「……素敵です……この人になら……私の……おしりを触られても……」


!?!?!?!?!?


「ちょっ、ちょっとあなた、何を」


「ねこさん、ずるいです、こんな素敵な方と仲良しさんだなんて……」


「仲良しも何も、彼はねこの恋人です」


「なら私も混ぜてください……♪」


いや何を言ってるんですか???


「えっ……?と……?」


あなたも若干嬉しそうにせずにキッパリ断ってくださいよ!もう!






ねこのレストラン、間もなくオープンです。


おしまい。










「トカゲさん、あの子にもレストランの話してたんだー」


「あ?うるせぇな……」


「よっぽど気に入ったんだね〜♪」


「う、うるせぇ!噛みちぎるぞ!」


「きゃあーこわーい!そーれこちょこちょ〜」


「わっちょお前やめぎゃはははははは!!!」

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[良い点] イナミの特異性をいかしてる [気になる点] ・・・魅惑のお尻に惑わされんな! [一言] 普通にイナミが可愛い〜♪
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