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アルテミドラ編3

「暴竜ファーブニルが倒されたか……フフフ……」

ある魔女の独白。魔女は水晶球を片手で持ち、つぶやいた。

「……笑いごとではないと思いますが」

もう一人の魔女が言った。

「どうしてだ? 何か気になることでもあるのか?」

「この竜を倒せし者は私たちの、そしてあなた様の障害になります。必ずやあなた様の前に立ちはだかるでしょう。笑いごととは思えません」

「フッフフフフフ、障害か。確かにそうなるであろうな。この者は私の理想、闇の支配をさまたげるであろう」

「そこまで分かっておいでなのになぜ……?」

「この私が楽しんでいることがふしぎか?」

魔女は魔法で水晶球を台座に運んだ。

「なんの障害もないのはつまらんと思ってな。いつの日か、この者は私の前に立ちはだかるであろう。この強い瞳を持つ者は、敵としてな」

「それは危険ではありませんか?今すぐ排除しておくべきではないのですか?」

「モルヴァン、この私が負けるとでも?」

「いいえ、そうではありません。危険分子の芽はつみとっておくべきだと私は考えているのです。必ずやあなた様の邪魔になりましょう」

「敵の実力は過少評価しないことだ。おまえたちバシュヴァが三人束になっても勝てるとはかぎらんぞ」

「それは……」

「フフフフ,光と闇は相反する。

 元素の中でももっとも対立・緊張する。奴は光、私は闇。いずれ近いうちに相まみえるであろう。

 これは必然だ。おもしろいではないか。闇よ、在れ。フッフフフフフ」



「お兄ちゃん、どこかなぁ」

シエルがつぶやいた。ここはテンペルの庭である。

「お兄ちゃん、いないね」

ノエルが言った。

シエルとノエルは共に12歳。非常に仲がいい親友同士でもある。

二人はセリオンを探していた。二人ともセリオンを兄のように慕っていた。

「あ、アリオンだ」

とノエル。

「アリオンなら何か知ってるかも。行ってみよう」

とシエル。

シエルとノエルはアリオンの姿を見つけた。アリオンは剣の素振りをしていた。

「アリオン!」

シエルがアリオンに呼びかけた。

「なんだよ、何か俺に用か?」

「お兄ちゃんがどこにいるのか知らない?」

「今日は街に出かけたみたいだ。テンペルにはいないぞ」

「そっかぁ」

「残念だなぁ」

ノエルとシエルが答える。

「おまえら、いいかげんにセリオンに甘えるのをやめろよな。いつまでも子供ってわけじゃないんだぞ」

「むっ……」

シエルがむっとした。

「アリオンはお兄ちゃんによく剣の相手をしてもらっているじゃない」

ノエルがアリオンに反論した。

「俺はセリオンの邪魔はしてないさ」

「邪魔してなんかいないもん!」

ノエルが言った。

「とにかく、あんまりセリオンにかまうなってこと!」




セリオンはエスカローネといっしょにツヴェーデンの街に出かけていた。デートである。

「なんだか、久しぶりね。こうしていっしょにいられるのって」

「そうだな。ここのところ忙しくっていっしょの時間を取れなかったからな」

「今日はうんと付き合ってもらいますから」

「ははは、付き合うよ」

セリオンは苦笑した。二人は歩きながら会話していた。

「ん?あそこのカフェで休もうか」

「そうね。行きましょう」

セリオンとエスカローネはカフェのテラスに入った。

二人ともコーヒーを注文する。コーヒーはすぐにとどいた。

「おいしい」

「ああ、うまいな]

「もし」

赤いスーツの女性が話しかけてきた。

「ん?」とセリオン。

「なんでしょう?」とエスカローネ。

「よろしければごいっしょにお茶を飲んでもよろしいでしょうか?」

セリオンはエスカローネの顔を見てから。

「どうぞ」

「ありがとうございます。では」

女性はあいていた席に座った。

「私も同じものを」

女性はウエイトレスに注文した。

「失礼ですが、あなたがセリオンさんですか?」

「はい、俺がセリオンです。どうしてですか?」

赤い女性の目が怪しげな光を発する。座席にコーヒーが届けられた。

「暴竜ファーブニルを倒した英雄――一度お会いして話をしたかったのです」

「よく彼だと分かりましたね。彼のことが公表されたわけじゃないのに」

エスカローネが尋ねた。

「確かに。どうして俺のことを?」

「ウッフフフ、個人的な好奇心ですわ。ただ誰があの暴竜を倒したのか知りたかったのです。事実あなた以前はあのツヴェーデン軍でさえも手も足もでなかったでしょう? テンペルに属する者とまでは分かったのですが、ではその中の誰が?と思いまして」

赤い女性はコーヒーを口にする。

その身のこなしは優雅で洗練されていた。

「あなたのおかげでツヴェーデンに平和と平穏がもたらされたのです」

「そんなに持ち上げないでくれますか。そういうのは苦手なんです」

「それは失礼しました。ずいぶんと謙虚な方なのですね。もっと事績を誇ってもよさそうなのに」

赤い女性はまたカップのコーヒーに口をつける。

「あなたはどういったかたなのですか?」

エスカローネが聞いた。

「私ですか? 私はドリス Doris と申します。魔法学院で講師を務めております」

「赤がお好きなんですか? 髪も瞳も服も赤なんですね」

「ええ、私は赤が好きです。まるで血のようですから」

ドリスがエスカローネに答えた。

「あなたはセリオンさんの恋人ですか?」

「はい、そうです」

「美しい金の髪ですわね。長くてさらにさらさらとしていて、つやがある。うらやましいですわ」

「いいえ、それほどでも」

エスカローネは照れ臭そうに自分の髪に触れた。

「それではそろそろ。これ以上ここにいてはお二人の邪魔をしてしまいそうですから。私はこれで失礼させていただきます。会計のことは心配なさらないでください。自分の分は払っていきますわ。セリオンさん、お会いできて光栄でしたわ」

ドリスは席を立つと一礼して去って行った。

二人はドリスを見送った。

「驚いたな。直で見破られるとは思わなかった」

「そうね。でもきれいな人だった……」












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