決心 (side : 黄泉)
初めての人間との触れ合い。
酒場に連れて来られた僕は、彼らと共に勝利を分かち合った。
魔王軍での粗末な食事の時間とは全然違う。
美味しい肉や野菜を食べ、初めて酒という飲み物も口にした。
人間は酒で酔ってしまうらしいが、僕には全然効果が無い様だ。
そして、酒場に居る皆が僕に謝辞を述べてくれた。
苦楽を共にして、それが終わると互いに労い合う。
彼らには当たり前の事かもしれないが、僕にはその全てが新鮮であった。
夜も更けて、皆が帰路に着く。
僕もようやく解放されて、リタお姉様の塔に向かう。
僕の事、褒めてくれるだろうか?
もしかして、今晩ずっと愛してくれるかな?
思わず顔がにやけてしまう。
そして塔を上り、最上階にたどり着いた。
「黄泉です…ただいま帰りました!」
勝手に入って良いのだろうかと、入り口の扉の前で待つ。
しばらくすると、何やらフワフワの小さな人形みたいな変な奴が現れた。
「だ、誰ですか〜? って、そんな事より大変なのです〜!」
何だろう? この変な奴。
リタお姉様の仲間なのかな?
「あの…僕、リタお姉様に言われて街を守ったんだけど…」
「リタ様のお知り合いの方なんですか〜! 丁度良かった〜! リタ様が、リタ様が大変なのです〜!」
何だか良く解らないけど、とにかく凄く焦ってる。
「リタお姉様がどうかしたの?」
変な奴が語った最悪の事態に、僕は勝手に中へと足を踏み入れた。
そして、僕が見たお姉様の状態は想像を絶する状態だった。
「う、嘘だ…そんな…」
絶句するしかなかった。
見目麗しく可憐だったお姉様の身体は、下半身がドロドロに溶け落ちている。
ベッドに横たわる身体は、既に呼吸もしていない。
「そ、そんな…まさか、まさかまさか!」
絶望と悲しみが僕の中を激しく駆け巡る。
「そんな…リタお姉様が…死んじゃったなんて…」
涙が溢れ出す。
止めどなく溢れ、床に零れ落ちた。
「リタ様は死んでいないのです〜!」
いつの間にか直ぐ側に来ていた変な奴が、僕にそう告げる。
「お姉様は…息をしてない…もう死んじゃってるよ…」
鼻水をすすり、涙声ながらも僕は反論した。
「毒の進行を止めるため、リタ様は身体の時間を止められたのです〜! だから呼吸をしていないのです〜!」
「ほ、ホント…?」
ウンウンと頷く変な奴を、僕は思わず抱きしめた。
「と、ところで〜!アナタはいったい誰なのです〜?」
「え…?あ、僕は…黄泉です。リタお姉様の雌奴隷になったんですけど…」
「そうですか、雌奴隷に…って、な、何ですと〜!」
事の成り行きを教えてくれる変な奴…じゃなくて使い魔。
魔王軍三巨頭の一人である氷の魔神、白夜。
その妹である影の魔神、月影。
リタお姉様が保護していたという魔王の因子を持つ子供。
その子が連れ去られてしまった。
そして、僕より先に此処に戻って来た弓術士が既に追跡を開始している。
「お姉様は…元に戻るんだよね?」
「リタ様は不死身なのです〜!た、多分ですが〜!」
使い魔に尋ねてみるも、怪しい答えが返って来た。
これから僕は…どうすれば良いんだろう。
お姉様の身体を治す手段なんて、全く見当もつかない。
今の僕に出来る事、それは…
「お姉様を酷い目に合わせたクソ姉妹を…ブチのめす!」
思わず口にして、声を出してしまった。
僕一人では、氷の魔神と影の魔神に勝つのは難しい。
いや、実力差を考えたら絶対に無理だ。
でも、弓術士が奴らを追っている。
という事は…!
彼女と合流すれば、あの姉妹にも勝てる見込みがある。
「リタお姉様、僕が必ず…仇を取ってみせます!」
冷たくなったお姉様の頬にキスをする。
呼吸を停止しているお姉様に、僕は必ず復讐を成し遂げる約束をしたのだった。




