停止 (side : リタ)
不覚であった。
白夜と月影の魔神姉妹によって、レイワイゼン王子は攫われた。
そして、儂の命も風前の灯火。
左脚は既に溶け落ち、毒は全身に周ろうとしている。
全身を溶かされて死ぬまで、残り数分といったところか。
セーラは大丈夫だろうか…
消滅の魔神との戦いを、たった一人で強いて貰わねばならない。
グロニア王国を守れる事を祈っている…
デューレの事も心配だ…
不死の王は地獄の高位悪魔をも配下にしていると聞く。
風神を呼び出す事態にならなければ良いのだが…
そして、黄泉…
どうか人間達を守ってやって欲しい。
もしもセーラとデューレが無事であれば、儂の代わりに力を貸してやってくれ…
そろそろ…儂も…
勇者フィーグの元へと…旅立つ時間の様だ…
100年も生きた末、このざまだ…
何をやっているんだと…貴方に怒られてしまうな…
(…それで良いのかい、リタ?)
フィーグの声が聞こえる。
(リタの為すべき事が残っているだろう?)
こんな状況で…何が出来るというのだ…
身体は溶かされ…仲間達とも分断…
(今、リタが居なくなれば…どうなる?)
セーラとデューレ…そして黄泉が…生き延びれば…彼女達なら…きっと上手くやってくれる…
(魔王の因子を持つ、あの小さな王子はどうなる?)
魔王であった…レイワイゼン王子…
それは…解っている…
だが…もう…
(リタ、戦乙女と弓術士に…あの王子を討たせるつもりなのか?)
セーラとデューレが…レイワイゼン王子を討つ…
無理だ…
あの子達が…その重圧に…耐えられる訳が…ない…
世界を救うため…それを…成したとしても…その重い楔は…彼女達の心に…一生残り続ける…
以前に儂が手を下そうとしたのも、それが理由だからだ。
儂を憎めば良い。
怒りと悲しみの矛先を儂に向ければ良いのだ。
だが、彼女達が自ら手を下せば…
その鉾先が自分自身に向いてしまったなら…
壊れる。
彼女達の心は、もう二度と修復が出来なくなる…
(リタ、君はそれを許せるのか…?)
まったく…いつもそうやって…
許せる訳がなかろう……!
フィーグ…やはり貴方の傍に行くのは先延ばしじゃ!
「精神保存…」
精神の欠片を胸のペンダントに移す。
現在の意識を飛ばし、遠く離れた者と会話をする事が可能な闇属性の力である。
会話が可能なのも僅か数分だけだが、これで現状を伝える手段は得た。
そして…
「時間停止…」
儂は自らの身体に対して時間を停止させた。
身体を蝕む即効性の毒の進行は、これで止まる。
今の儂に出来るのはここまでだ。
不甲斐ないが、後は他力本願とさせて貰う。
すまんが…後は頼むぞ…
セーラ…デューレ…そして、黄泉…
こうして、儂の時間は止まった。




