敗北 (side : リタ)
「さてと…白夜とやら、一応訊いておく。 今直ぐ撤退するのであれば、お主の命は見逃してやるが?」
氷の魔神、白夜に対して儂は提案を持ち掛ける。
「あら、意外に平和的なのね? でも、そんな戯れ言に従うとでも思って?」
「じゃろうな。物分かりの良い魔神に会ったばかりだから、訊きたくなっただけじゃ」
残念だが、当然の結果だった。
黄泉だけが魔神としてイレギュラーなのだ。
「あの三下をどうやって籠絡したのか興味深いわね。 でも、あの子が寝返ったところで貴女が有利になる事は無くてよ?」
「それはどうかの? 黄泉は強くなる。お主よりも遥かに強くなるじゃろう。 人を護る正しき魔神としてな!」
それはお世辞ではなく、儂の本心。
人との触れ合い、それは必ず黄泉を強くする。
「御託はそれぐらいにして頂けるかしら?」
「そうじゃな。 さっさと終わらせようぞ」
この時点で、儂は勝利を確信していた。
既に、闇の奥義たる『属性力無効化』が発動しているのだ。
氷の魔神が如何なる攻撃を繰り出そうとしても、その力は掻き消される事となる。
「もう気付いておるじゃろう? お主の力は全て封じられているぞ」
「流石は大賢者ね。 もし慟哭と貴女が当たっていれば、計画の半分は失敗していたわ…」
この期に及んで、未だ強がっている白夜が滑稽に思えてくる。
そして、慟哭とか言っていたが…グロニア王国でセーラが対峙しているであろう消滅の魔神の事なのか?
いや、そんな事よりも早く終わらせるのだ。
本当なら、この澄ましたクールビューティ気取りを泣き喚かせてやりたい。
黄泉との交わりとは違い、愛情皆無な凌辱で真の恐怖を教えてやりたい。
だが、そんな悠長な暇は無い。
「死んで貰うぞ、氷の魔神よ」
白夜に向かって一歩踏み出した、その瞬間。
「違うわ。 死ぬのは私じゃなくて、貴女」
白夜は何故か微笑を浮かべている。
何が起こった?
何故、もう一人の魔神がいるのだ?
儂の属性力無効化は発動している筈だった。
影の中から、突如現れた魔神。
その気配にすら気付く事は出来なかった。
そして…魔神が持つ鋭い小太刀は、儂の左太腿に深々と刺さっている。
「そんな!リタちゃんッ…!」
レイワイゼン王子の声。
意識が朦朧としてゆく。
これは…おそらく…
厄介な毒の様だ…
「おっかしいな! 心臓を狙ったのに、コイツ咄嗟に避けやがったよ…」
黄泉と…同じ年頃の…少女、いや魔神か…
「いいえ。月影は見事な動きだったわ」
「うん、白夜お姉様!」
顔も良く似ている…姉妹なの…か…
「これが我が妹にして、影の魔神たる月影の力。 影に忍び、何者だろうと気付く事は無いのよ」
属性の…力では…無かった…
「月影の使った術は属性の力では無いわ。忍術と呼ばれる、異世界の暗殺術なの」
異世界…だと…
「もう貴女は死ぬわ。自分の身体を見てご覧なさいな」
白夜の…忠告に…朦朧としながら…視線を下げて…
『ビチャッ!』
儂の…左脚が…溶けて…いる…?
立っている事も出来なくなり、その場に崩れ落ちる。
「あのさ、その毒は解毒不可能だから! どんな薬も魔法も効かないよ。 あと数分でアンタは跡形も無く溶けてしまうから、安心して死んでよ」
月影の…声だけが…聞こえ…
既に視界もボヤけている。
毒のせいか、喋る事も出来ない。
「では、参りましょうか。レイワイゼン様?」
白夜の声を聞いたのが、儂の最後の記憶であった。




