感情 (side : 黄泉)
街の西側にある出入り口。
防衛ラインを築く者達が固まって待機していた。
僕が彼らに割って入ろうとすると、冒険者らしき男に引き止められる。
「待ってくれ!嬢ちゃんには無理だ。早く街の中心部に避難してくれ!」
「あ、僕なら大丈夫ですよ。先に行きますね」
「おい、待つんだ!嬢ちゃんッ…!」
気遣う男を跳ね除け、彼らの前に出る。
敵が見えて来ていた。
先程とは違い、魔獣が多く混じる混成軍。
厄介な事に、石化能力を持つバジリスクとコカトリス、そしてゴルゴンを最前列にしている。
魔神には奴らの石化能力は全く効かない。
ただの牛、鶏、蜥蜴にすぎない雑魚魔獣である。
だが、人間の場合は別だ。
あれらの魔獣の能力によって、石に変えられてしまう。
ならば、先手必勝。
人間達と交戦させる訳にはいかない。
魔獣の元まで、一気に駆け走る。
先頭を走る猛牛の魔獣、ゴルゴンが突進して来た。
大剣を横一文字に一閃し、その巨体をスライスにする。
奥から迫るのは、巨大な鶏のコカトリス。
正面から袈裟斬りに両断。
続いて、大蜥蜴の様なバジリスクの背中に飛び移る。
そのまま脳天に大剣を突き刺した。
石化能力を持つ魔獣達は、瞬時に屍となった。
先鋒にしていた石化魔獣が倒され、後続の亜人種達は驚愕したのか足を止めてしまう。
でも、容赦なんてしない。
先程と同じく、大剣から衝撃波を放ちゴブリンやオークの頭を跳ね飛ばす。
こちらのエリアも、僅か数十秒で片が付いた。
僕がいなければ、間違い無く防衛ラインは突破されていただろう。
再び、人間達の元に戻る。
皆が僕に驚愕している様であった。
「じゃあ、僕は他のエリアを手伝いに行きますね。危なそうなのが来れば、また戻って来ますから」
「助かったぜ!しかし、嬢ちゃん…見ない顔だが凄いじゃないか!」
「有り難うよ!アンタが居なきゃ死人の山だったぜ」
「貴女は女神だ…街の危機に現れた女神様だよ!」
踵を返して次のエリアに向かおうとする僕に、彼らが感謝の意を伝えて来た。
なんなんだろう、この感情は…?
お姉様が命じた任務を遂行しているだけなのに。
僕の様な魔族には、他人に感謝する概念は無い。
常に弱肉強食、弱い者は淘汰される。
それが真理だと思っていた。
それなのに…
彼らに感謝されて、僕は嬉しいと思っている。
こんな気持ちは初めてだ。
これが、人間というものなの?
こうなると知った上で、リタお姉様は街の防衛を命じたのだろうか?
「ところで、嬢ちゃんはいったい何者なんだい?」
男の何気ない質問。
自らの正体、斬撃の魔神である事は答えてはいけない気がした。
何故なら僕はもう、彼らの敵ではないのだから…
「えっと…大賢者のリタ様に新しく雇われた新人メイドで、黄泉といいます」
咄嗟の出鱈目だが、これくらいなら戦いが終われば真実に出来ると思う。
「そうだったのか…。本当に有り難うな、黄泉さん」
男は再び、感謝の言葉を口にした。
照れる…
恥ずかしい…
心がワサワサしている…
「じゃ、もう行きますね!」
照れ顔を見られたくない僕は、逃げる様にその場を離れたのだった。




