忠義 (side : リタ)
転移して再び帰還したのは、住処たる賢者の塔。
儂の自室である。
「お…お姉様、あれはいったい…!」
此処に初めて訪れた黄泉が、窓の外に広がる異常事態に狼狽えている。
街から然程も離れていない場所で、猛烈な巨大竜巻が発生していたのだ。
現在、デューレが大軍勢と戦っているのは明白であった。
「黄泉には街の防衛に当たって貰うが…良いな?」
「この街を僕が…守る? お姉様は一緒じゃないんですか?」
儂の指示が意外であったのか、驚いた表情を見せる黄泉。
「儂には他にやるべき事があるのじゃよ。お主とは別行動を取らねばならぬ」
「そんな…! 」
「儂の仲間である弓術士が戦っておるが、討ち漏らした敵が街に侵入するのをくい止めるのじゃ。この街にとっての最終防衛ラインとなって貰うが、出来るな?」
「……解りました。お姉様の命令なら!」
納得はしていない様だが、理解はしてくれた黄泉。
片膝を着いて、その忠義を見せてくれている。
「儂の目的は人を死なさない事じゃ。お主がそれを果たせたなら、また可愛がってやる」
そう言いながら、頭を撫でてやる。
嬉しそうに顔を赤らめる黄泉。
「えへへ、僕…やる気出ました!では、行ってきます!」
満面の笑みと共に、黄泉は疾風の様に塔を駆け下りて行ったのだった。
さて、儂の方もギリギリ間に合った様だ。
塔の屋上に感じる気配は一人。
レイワイゼン王子がデューレを心配しながら、外を眺めていたのだろう。
そして、たった今。
もう一人の気配が増えた。
おそらく、それは…!
あと数分でも遅れていれば、最悪の事態だっただろう。
急ぎ屋上へと登った儂が遭遇したのは、レイワイゼン王子に近寄る白いマントの女であった。
「そこまでじゃ。その子供に手を出す様なら、容赦はせんぞ?」
「リタちゃんッ!」
儂の声に安堵するレイワイゼン王子。
身体的には年齢が近いからか、すっかりと儂の事を『リタちゃん』と呼ぶ様になっている。
出来ればセーラやデューレと同じく『お姉ちゃん』にして欲しいものだ。
黄泉が呼ぶ『お姉様』は、そもそも意味合いが全く違うのだが…
「あら、大賢者じゃない。思ったよりも早く帰って来たわね? やっぱりあの子では足止めにもならなかったわね…」
長い青髪をかき上げながら、儂を見据える白いマントの女。
奴の言う『あの子』とは黄泉に間違いない。
儂が味方に引き入れたとは、まさか思ってもいないであろう。
「お主……魔神じゃな?」
「ええ、お初にお目に掛かるわね? でも…貴女は此処で非業の死を迎えるから、次は残念ながら無くてよ」
魔神と呼ばれる者達は、何故こうも自信過剰なのだろうか…
「これから最後を迎える貴女に答えてあげるわ。私の名は白夜、魔王軍三巨頭の一人にして氷の魔神よ」
最強ランクの魔神が来てしまったとは、儂もつくづく運が悪いのかもしれない。
デューレが風神を呼び出してしまう前に、この白夜を倒して合流。
不死の王を蹴散らした後、直ぐ様セーラの救援に向かわなければならない。
儂が早急に白夜を倒さなければ、セーラとデューレが死ぬ事になる。
「100年前に負けず劣らず、今回もハードな展開じゃわい…」
思わずボヤきながら、氷の魔神とやらに対峙したのであった。




