婚約
「ローラン……ローラン……!」
彼の名を何度も口ずさみながら、逞しい背中を抱き締める。
勝手に自分の身体がクニャクニャと動いてしまう。
もう自分でも、何が何だか判らない。
意識せずとも、私の顔はローランの顔に近付いて行く。
互いの唇が重なるまで、あと10センチ…。
あと5センチ…。
あと…!
あぁ…これが私のファーストキス。
遂に……遂に……!
「落ち着いて、セーラ!」
ローランの唇に吸い付こうとした刹那、彼は私の肩を優しく押し戻す。
「……えッ?」
突然、現実に戻ってしまう。
あと僅かだったのに…!
「セーラ、巫女様である貴女を…穢す訳にはいかないんです」
違います。
私がローランを穢そうとしております。
どこまでもピュアな朴念仁なイケメンには、直球ストレートを投げるしかない。
少女マンガのヒロイン達がそう教えてくれた。
だから、想いを伝えよう。
「私、ローランが好き。 私が…ローランに抱いて欲しいの!」
咄嗟に出た台詞。
これが私の人生初めての告白だった。
真っ直ぐローランの瞳を見つめる。
照れるけど、直視する!
ほんの数秒の時間。
ローランと見つめ合う僅かな時間。
それはまるで、永遠に続くかの様に長く感じられた。
「セーラ……僕なんかにそう言ってくれるのは…心から嬉しい。 ですが…僕は貴女に誓いました。 何があっても守り抜くと」
慎重に言葉を選びながら、ローランは私に語りかけてくれる。
うん、何となく解るよ。
これ、振られちゃうやつだ…。
雌豚ちゃん完全敗北バッドエンド。
さらば私の初恋…。
「だから…セーラと結ばれるのは、魔王を倒してからです。 それで良いですか?」
はい?
今、何と言いました?
私ってば、聞き間違えました?
「それでは…僕から改めて言わせて下さい。 魔王を倒したら、僕と結婚して頂けませんか?」
はい、これは夢ですね。
私は自分の部屋で寝てるんだわ、うん。
こんな幸せな夢なら醒めなくて良いですよー?
そして、私はベッドに卒倒した。
「だ、大丈夫ですか!セーラ!」
慌てて私を覗き込むローラン。
嬉しい!
嬉しい嬉しい嬉しい!
「はい…。 私、ローランのお嫁さんになります…!」
もはや正常な思考が出来なくなった私には、そう答えるのがやっとだった。




