過去 (side : リタ)
物語は、セーラとメアリ皇女が王国に向かった直後まで遡ります。
皇女メアリ、その護衛として戦乙女であるセーラがグロニア王国へと転移した。
「行っちゃったね、皇女とセーラっち」
「そうじゃの…。ま、果報を待つとしようぞ」
儂とデューレ、そしてチビ王子が2人を見送る。
2日の間だけであるが、どこか寂しさを感じてしまう。
「メアリ皇女の恋愛相談、リタ婆も興味あったんじゃないの?」
「馬鹿をぬかせ。儂には微塵も興味がない事じゃ」
「フフッ、無理しちゃって!昔の自分を重ねてたでしょ?」
悪戯っぽいデューレの含み笑い。
そうじゃった…。
人間の10倍もの時間を生きるエルフであるデューレ。
即ち、此奴は100年も前の事を知っておるのだ。
儂の過去の話、若き頃の色恋沙汰まで…。
「未だに愛する勇者様の事、忘れられないんですよね〜!リタ皇女様〜?」
「な、何を申すのじゃ!儂は…」
「愛する勇者様の為に100年もの間、操を立ててるんですよねぇ!リタ皇女様ったら、もぅ素敵よね〜!」
捲し立てるデューレの声に、耳まで真っ赤になりそうだ。
「リタちゃんって、勇者と知り合いなの…?」
デューレの与太話に、チビ王子までが要らぬ興味を持ってしまったではないか。
「そうなのよ、レイきゅん!リタ婆ったら、100年前の勇者とラブラブなお姫様だったのよ!」
「勇者とラブラブ…?お姫様…?」
「うん、勇者の恋人で皇国の姫君だったのよ!その頃はこんなチンチクリンじゃなくて、ボンッキュッボンなワガママボディのお姉さんで……」
チビ王子の耳に入ってしまう儂の過去話…。
「おい…デューレ、もう良いじゃろ?」
「え〜?どうしよっかなぁ…?」
チビ王子をハグしながら、察せよとばかりに視線を送るデューレ。
悔しいが、此奴の見事な策略に完敗じゃ。
今回は残念エルフの要求を呑んでやる事にする。
「そういえば、大魔獣の研究が途中じゃったのう。儂はこれから死の渓谷に向かうとするかの…」
「あら、それは大変。早く研究の続きをやらなくてはいけないですわね、リタ皇女様〜?」
白々しいデューレの棒読み。
まったく…。
チビ王子とイチャイチャする為に、儂を追い出したいのじゃろう。
仕方あるまい。
今日一日くらいなら、望み通りにさせてやろう。
「お留守番はアタシとレイきゅんに任せて!」
「ウム、夜には戻るからの…宜しく頼む」
こうして、体良く出掛ける羽目になってしまった。
本当なら、残って違う事をする予定だったのだが。
「それじゃ、いってらー!」
和かな笑顔を浮かべる残念エルフに見送られ、儂は死の渓谷へと向かうのであった。




