審判 (side : デューレ)
遂にその姿を現した、風を司る最強の神。
「アタシが望むのは…あの不死の王の抹殺! この大軍を無に帰し、街を守って頂戴ッ!」
『御意…!』
風神の声はどうやらアタシだけが感じ取れる様である。
と、その瞬間。
後方に異変が起こったのを感じた。
振り向いて、目を凝らしたアタシが見た光景。
それは上空から無数に現れた風の刃。
その全てがギロチンを落としたかの如く落下してゆく。
不死の怪物も、魔獣も、亜人も、その全てに神の裁きが下る。
風神が出現して、僅か1分程度。
怪物の大軍団は壊滅した。
魔法や剣技による防御によるものだろうか、肝心の不死の王と首位悪魔は未だ健在であった。
3人の首位悪魔が舞い上がり、風神に反撃を始める。
無詠唱での高位攻撃魔法、超高レベルの斬撃。
だが、その全てが突風に打ち消される。
「何だッ! 動けんッ!?」
「どうなっているのッ! あの化け物はいったい!」
風神のテリトリーたる空中に来てしまった愚かな首位悪魔達。
風の牢獄に捕獲されている事に気付いていない。
彼らにテュポーンの巨大な掌が迫り…
『ブチュッ!!』
3人は一瞬にして握り潰された。
その肉片ですら、突風が切り刻んでゆく。
地上に残っていた者の顔は恐怖に慄いでいた。
自分達が蹂躙される側になるとは考えた事すらないのだろう。
「風神、奴らを皆殺しにしなさい!」
アタシの叫びに、更に戦慄する表情が見て取れた。
「何故だっ! 転移魔法が発動しない!」
「馬鹿な、そんな馬鹿なッ!?」
巻き起こる神の風は転移魔法すら吹き飛ばしている。
風神から逃げる事は出来ない。
残り2人の首位悪魔、そして不死の王が宙に浮いてゆく。
風神によるサービスなのだろうか、彼らは始末される事なくアタシの目前にまで運ばれて来た。
「わ、我々悪魔と手を組まないか? 此奴とは手を切ってやる!」
「そうね! 貴女になら私達は全身全霊で従いますわ!」
首位悪魔の男女がアタシに持ちかける。
「うっさい。 消えろ!」
アタシの返事に2人の首が飛ぶ。
更にその身体は全て細切れにされて風の中に消えてゆく。
残るは、不死の王だけとなった。
フードの奥にある骸骨からは恐怖が読み取れないのが残念だ。
「やっと会えたわね…」
「ま、待て! 待ってくれ! 私は…」
「アンタは沢山の命を奪って…くだらない軍団を作った」
元から、話をする気なんて微塵も無い。
「私とて世界の命運を憂いていたのだ! 魔王に滅ぼされる前に、私は戦力を集めていただけに過ぎんのだッ!」
「勝手に決めんな!勝手に命を弄ぶなッ!」
「やり方は違えど、私と貴様達は敵では無いのだ!」
「もういい、アンタも消え失せろッ…!」
私の判決に、審判が下された。
風の刃があらゆる方向から吹き荒れる。
風神の力の前に、得意の再生すら出来ないまま切り刻まれてゆく。
断末魔の叫び声と共に、不死の王は完全に消滅した。
こうして、数々の町や村を滅ぼした不死の王の大軍団は全滅した。
遠く離れた位置だったのが幸いし、風神の蹂躙による街への被害も無かった様だ。
街を防衛してくれた者達は無事だろうか?
(さて、次は…アタシの番か…!)
地上に降り立ち、風神を見上げた。
覚悟なんて、とっくに決まっている。
向こうでリディマーやローランに会っても、胸を張れる。
「代償、払わせて貰うわ。 有難う、風神…」
『汝、その使命を未だ完遂せず…! 汝の命、その時まで預けるものとする…』
そう告げた刹那、その巨躯は消えた。
呆然とするアタシの前に風神の矢が舞い落ちる。
その矢は真っ黒に変色していた。
おそらく、元の色に戻るまでは使えないのだろう。
「アタシ、生きてる…の?」
何とか絞り出した呻き声に、ようやく生を実感したのだった。




