風神 (side : デューレ)
尋常ではない数の悪魔達がアタシに押し寄せる。
これだけの悪魔の軍勢を従える不死の王。
おそらく…
親玉である不死の王どころか、数人の首位悪魔ですら魔神と変わらぬ戦闘力を持っているだろう。
それでも、諸悪の根源がそこに居るのならば排除するだけだ。
勝算は…有る!
薄い緑色をした、蛇の様な一本の矢。
それは『風神の矢』と呼ばれる、リディマーが託してくれた最後の希望。
アタシが未だ幼い頃の記憶が蘇る……
「ねぇリディマー、この蛇みたいな矢は何なの?」
リディマーに抱きついていたアタシは、彼の矢筒の中に入っていた一本の矢を指差した。
「これはテュポーンを呼び出す時に使う矢なんだ。」
「テュ…ポーン…ってなぁに?」
「テュポーンとは、風を司る最強の神様だよ。」
「風の神様なんだ!凄ーい!」
リディマーの言葉に、アタシは胸を踊らせた。
風を操る弓術士は、神様の力を借りる事も出来るのだと。
「だが、神の力を借りるには代償が必要でね。」
アタシの頭を撫でながら、リディマーは教えてくれる。
「これは弓術士にとっての最後の希望なんだ。命と引き換えにしても倒すべき強大な悪が現れた時、力を貸して貰う為の。」
「最後の希望…?命と引き換え…?」
最後の希望。
そして、命と引き換え。
アタシは、この世界を守りたい。
そして、レイきゅんを守りたい。
だから、今こそ。
風神の力が必要。
その代償となるのなら、アタシの命なんて安いものだ。
セーラっちが今でも愛している、グロニアの第2王子ロヘラングリン。
彼の想いが、今頃になって解った気がする。
アンタは、セーラっちだけを救ったんじゃなかったんだね。
自らの命を犠牲にしても、炎の魔神を倒して世界を救っていたんだ。
やっぱりアンタって、カッコ良かったわ。
前はバカにしたりして、ホントにごめんね。
あの子がずっと引き摺ってるのも頷けちゃうよ。
そっちに行ったら……
セーラっちの話……
沢山聞かせてあげるから……
楽しみにしてなさいよね……
そして、嵐弓フェイルノートから放たれた、風神の矢。
空気が澱む。
風が意志を持ったかの如く騒めいた。
アタシに押し寄せようとしていた悪魔達の様子がおかしい。
明らかに、悪魔達が怯え始めている。
次の瞬間。
全てを吹き飛ばすかの様に、超巨大な竜巻が巻き起こる。
アタシが使う風の技の比ではない。
地上から遥か、天空までも繋がった超巨大な竜巻。
まさに天変地異である。
一瞬にして、宙を舞う悪魔達が飲み込まれた。
千切れ、潰され、一瞬にして挽き肉にされてゆく悪魔達。
悪魔の軍勢の大半は、瞬時にして壊滅した。
竜巻の渦の中から出現した、その神々しき姿。
天にも届かんばかりの巨躯ながら、その上半身は美しき女神にさえ見える。
一方、腰から下は鱗が光り輝く大蛇のそれであった。
死の渓谷で遭遇した大魔獣でさえ、風神に比べれば小さいと思えてしまう。
『汝、我に命じよ…! 巨悪を滅ぼす為、我の力を行使せよ…!』
今、風神による一方的な蹂躙が始まろうとしていた…




