初恋 (side : デューレ)
遡る事、今から約100年前。
その時代に於いても魔王軍との戦いが勃発した。
異世界からの勇者が召喚されると、彼は人類を守る刃となった。
その勇者と共に魔王軍と戦う力を秘めた四聖人と呼ばれる者達。
聖戦士、戦乙女、弓術士、大賢者。
それぞれが一騎当千の彼らと魔王軍との戦いは熾烈を極める。
勇者が魔王と差し違え、遂に戦いは終焉を迎えた。
生き残ったのは二人だけであった。
エルフの青年、弓術士のリディマー。
美貌の魔法使い、大賢者のリタ。
当時幼い頃のアタシは叔父であるリディマーの帰還を心から喜んだ。
強くて優しい弓術士はアタシの憧れだった。
彼から聞いた数々の冒険譚。
そして、人間という存在。
妖精であるエルフは本来、人間との接触を嫌う。
自分達に比べて彼らは野蛮過ぎるのだと。
リディマーが教えてくれた数多くの人間のエピソードは、アタシをそんな偏見から解放してくれた。
大きくなったらリディマーと一緒に人間と交流したい。
そんな事を夢見ていたのが幼い頃のアタシだった。
アタシはリディマーの事が大好きだった。
時が経過して少女になった頃、彼の存在は初恋へと昇華していた。
リディマーの傍らに居られる様、アタシは己を鍛錬する毎日を過ごした。
そして、アタシは意を決してエルフの森を出た。
行き先はグロニア王都。
初めて触れ合う人間達。
全てが驚きの連続だった。
エルフの10分の1しか生きられない寿命。
短い時間の中で彼らは必死に生きている。
その一期一会に大きな感銘を受けた。
そして遡る事、今から10年前。
いつしかアタシは王城にも自由に出入りする様になっていた。
英雄リディマーの姪、もしくは族長の娘だからこそ許されたのかもしれないが。
この国には2人の王子が居た。
第1王子のレイワイゼンと第2王子のロヘラングリン。
瓜二つの顔をした小さな可愛い王子達。
第2王子はとても礼儀正しい良い子だった。
幼くして英雄を目指しての修練を積んでいる。
周囲の期待も兄以上に集めていた。
対する第1王子。
出来の良い弟へ対するコンプレックスの塊。
すぐ拗ねる、すぐ泣く、すぐ癇癪を起こす。
周りが見放すのも頷ける様な典型的ダメ王子。
リディマーは何故かアタシに第1王子の面倒を見させた。
正直、リディマーのお願いが無ければやりたくない程の問題児だった。
こんな事をさせる意味を理解出来なかった。
そんな中、事件が起こる。
第2王子派の何者かによって第1王子が誘拐されたのだ。
事件が発生した直後、リディマーだけがそれを知った。
犯人の要求はリディマーの命。
英雄リディマーという後ろ盾が無ければ第2王子が王位を継承する流れになるであろうから。
魔王軍との戦いをも生き抜いた英雄の呆気ない死。
抵抗すらした形跡も無く、心臓を槍で貫かれていた。
アタシはリディマーが遺していた手紙で事件の真相を知る。
はらわたが煮え滾るほどの怒りを覚えた。
リディマーを殺した者を今直ぐ抹殺したい衝動に駆られた。
しかし、その手紙にはこう記されていた。
『私の身に何かがあったとしても人間を憎まないで欲しい。 そして、レイワイゼン王子の事を頼む…』
私は国王に真相を打ち明け、裁きは人間に任せる事とした。
その後、犯人である宰相が捕まり処罰が下された。
レイも無事に解放された。
だけど、アタシの大好きなリディマーは二度と帰らない。
アタシの進むべき道は決まった。
弓術士を受け継ぎ、リディマーの代わりになる。
どんなに憎くとも、あの人が愛した人間達を守る。
それが…あの人との約束。
そしてリディマーが命を懸けて救った第1王子レイワイゼン。
彼の行く末を、アタシはずっと見守っていこうと決心した。




