覚悟
ジリジリと私に歩み寄る魔神、慟哭。
近寄られたら最後、消される!
原子に分解される!
額から鼻筋にかけて汗が流れる。
いつの間にか、首の周りも汗まみれになっていた。
「そんなに恐い顔すんなって! 痛みも苦しみも感じない消滅だぜ。 幸せな死に方だろ?」
下衆な嗤いを見せる慟哭。
怒りで頭が煮え滾りそうだ。
命を好き勝手に次々と消して、弄んでおいて…何が幸せなものか!
しかし、完全に気圧されている。
いつまでも鬼ごっこをしている訳にはいかない。
こちらからも手を出さなきゃ、一方的に圧される!
神剣ジュワユーズに水の力を集め…
剣の先に細い水流を形成し…超高圧の鞭に変える!
先の飛竜戦で使った技。
あれのコンパクト版だ。
岩をも切り裂く水の鞭を振るう!
鞭が触れたテーブルは切断され、触れた壁には亀裂が入る。
効果が有る無いじゃなく、攻勢に出るのが肝要。
特に1対1の戦いに於いては、多少の実力差すら凌駕する要素と成り得る。
かつて、サーテインに教えて貰った事だ。
礼装で武器も持たぬまま、皇女を懸命に守る彼。
その師匠の教えを、目の前で実践する。
「いっけぇぇぇーーーッ!!」
水の鞭を、途中から3本に枝別れさせた。
それは瞬時に思い点いたフェイントだ。
3方向から襲い掛かる、超高圧な水の鞭!
前、横、上と…!
「オメェ、馬鹿か…? 効かねぇッてんだろ!」
慟哭の声と共に、私が作り出した水の鞭も消滅した。
やはり属性の力も掻き消された。
頭で理解はしていたけれど、実際に目の当たりにするとショックは大きい。
しかし…
一見、無駄に見えた攻撃。
だが、解った事もあった。
射程が2メートル程で、慟哭を中心にドーム状の消滅フィールドを形成している。
とは言え…万事休す。
消滅の魔神を相手に、打つ手はない。
私だけなら逃げられるかもしれない…?
邪まな考えが私を支配しようとする。
駄目だ、出来る訳がない。
もし、私が逃げたら…背後に居る人が消される。
城にも街にも、まだ沢山の人達が残っている。
勝てる見込みが無い相手。
それでも…!
自分だけが逃げるなんて、今の私が絶対に許さない!
いつの間に、こんなヒーロー気質になってたんだろう?
以前は、いつも嫌な事から逃げていた弱虫だったのに。
この世界に来てから、沢山の出逢いと別れを繰り返して…私は変わったんだな、と思う。
もし、ここで消えるとしても…
人の命を守る為に戦う事を、絶対に後悔しない!
確固たる意志を胸に、私は再び消滅の魔神と対峙するのだった。




