誓約
魔王が居ない?
じゃあ、私は何故、こんな所に呼ばれたんだろう…?
「正確に言うと、まだ魔王は覚醒していないと言う方が正しいですね…」
魔王って、魔族で肌の色が紫色で耳が尖がってて…そんなイメージなんだけど違うのかな。
「魔王は人間の中で育ちます。 過去の伝承や文献、どれも共通しています。 そして魔王は必ず巫女様と出会い結ばれる運命なんです」
うん、そうだよね。
私は魔王ホイホイ。
超美形で強くて優しいローランには釣り合わないもん。
こればっかりは仕方ナス。
「僕は地方領主の次男坊でして、幼い頃から魔王と巫女様の伝承を聞いて育ちました」
何故かローランの自分語りが突然に始まった。
「勇者ではなく巫女様が現れた時代。 代々の巫女様は愛する者の元から立ち去り、世界を救う為に魔王と契りを交わします。 その物語は全てが悲恋の物語でした…」
そうなると、私もその一員となるんだよね?
って世界を滅ぼす魔王を魅了…なんて出来るのかな?
「だから僕は決意したんです。 家督は兄が継ぎますし、ある程度は自由の身。 巫女様が現れたら側に寄り添い、近付いて来るであろう魔王を振り払うと…」
少年は悲劇のヒロインであった巫女を救いたかった。
巫女が幸せになれる物語を作る。
それがローランの夢。
悲劇じゃなく、巫女が本当に愛する者と結ばれる。
それを成し遂げる為に強くなって巫女を守り抜く。
彼は12歳になると大陸を渡り歩き、数々の魔獣を倒して武勲を挙げた。
僅か14歳にして大陸最強の魔獣である暗黒龍を屠り、伝説の聖戦士の称号を得た。
大陸に於いて、今やその若き英雄を知らない者はいない。
「って、魔王って倒せるの?」
思わず口にしてしまった。
「負けるつもりは…ありません」
私に言い寄る男が居れば、魔王である可能性が高いって訳なんだよね。
ナンパ待ちに使われるのは悲しいけど、ローランは傍に居てくれる。
それはそれで、嬉しい。
「それで…これから私達はどうするの?」
暫くの間、ローランは考えを巡らせる。
私を再び見つめながら、慎重に言葉を選ぶ。
「王都に向かいましょう。 最強の騎士団も居ますし、魔王からセーラを守る拠点とするなら……」
ローランの言葉を遮る様に、私は立ち上がった。
「私、貴方と…ローランと一緒に旅をしてみたい!」
いきなりな私の主張。
ローランは驚きながら私の目を見る。
「私は強くもない普通の女の子だし、ただのお荷物だし…」
もうウジウジするのは辞めにしよう。
この世界に来て私は初めて笑みを浮かべてみた。
半分は作り笑いかも知れないけど、それでも…!
「弱っちくて…勇者じゃないけど、君は守ってくれる?」
弱々しい呟き。
それを聞いてくれたローランは、私へと近付いて跪く。
「やっと…笑顔を見せてくれましたね!」
そう言って私の右手を取ると、甲にキスをした。
「聖戦士ロヘラングリン・スペングラー、命に代えても貴女を必ず守り抜く事を誓います…!」




