悪夢 (side : レイ)
薄暗い廊下にボクは居た。
何処なのかは知らない。
だけど、何度も来た事がある。
目の前にあるのは、部屋への入り口。
この部屋の中での記憶は消したくても、消えてくれない。
背伸びをすれば、ギリギリに届くドアノブを回す。
ドアを開けて、恐る恐る中を伺う。
女の人の声。一人ではなく三人だ。
どの声も、ボクがよく知っている声。
だけど、こんな高い声を出すのは此処でだけ。
少なくともボクの前では、誰もこんな声は出さない。
嫌だ…怖い…!
でも、確かめなくてはいけない。
理由は解らない。
でも、それは大切な事だった気がする。
そんな思いを胸にして、暗い部屋の中を進む。
寝室。
その部屋は寝室だった。
豪華な姿見やドレッサーなどの調度品が目に入る。
その奥に大きなベッドが見えた。
ベッドの上には複数の人影。
やっぱり怖くて引き返したくなる。
でも、確かめなくてはならない。
もう一度、勇気を振り絞って前に進む。
人影がだんだんと、はっきり判る様になってゆく。
そして…
「あッ…ああッ…ンンッ!」
艶めかしい声を出すのは…セーラお姉ちゃんだった…!
何も身に着けずに肌を露わにしている。
セーラお姉ちゃんは誰かの腰に跨がり、自らも腰を必死に動かしていた…
「セーラ…お姉ちゃん…?」
思わず声を出してしまった、お姉ちゃんの名前。
それでも、誰もボクの声を気にも留めようとしない。
セーラお姉ちゃんの下にいる人が、その綺麗な胸を両手で鷲掴みにした。
セーラお姉ちゃんと交わる人の逞しい腕が目に入る。
大人の男だというのだけは解る。
だが、その人の顔は何故か見えない。
いったい誰なんだ?
こんな事をするアイツはいったい…!?
ボクの目には涙が溜まってゆく。
ボクの好きな人…セーラお姉ちゃんが…アイツと!
子供のボクでも、何をしているのかは理解出来た。
前にデューレお姉ちゃんが教えてくれたから。
そして、アイツの背後にも人影が見えた。
誰なのか、やっぱり確かめたい。
もう一歩近付いてみる。更にもう一歩。
「セーラっち、次はアタシだからね!」
デューレお姉ちゃん…!
「次は儂じゃろうが!割り込むでないわ!」
リタお姉ちゃんまで…!
2人共、やはり全裸だった。惜しげもなく胸を露わにしている。
腰を動かし続けるセーラお姉ちゃんを、アイツの肩越しに羨ましそうに眺めている。
いったい何なのだろうか?
何故、ボクはここに居るんだろうか?
どうして、こんな光景を目の当たりにしているのだろうか?
また…今日も…胸が張り裂けそうに……!
「……………ッ!?」
ガバっと上半身を起き上がらせていた。
いつもと同じベッドの上。
リタお姉ちゃんの塔の中にある寝室だ。
両脇を見ると、セーラお姉ちゃんとデューレお姉ちゃんが眠っている。
「ん…どしたの?レイきゅん…?」
ボクが起き上がった事に気付いたのか、デューレお姉ちゃんも目を覚ました様だ。
その長い耳がカサカサっと動いた。
そうか、エルフは人間よりも感覚が鋭いんだった。
「…怖い夢でも見ちゃったの?大丈夫だから…ね?」
そう言うと、ボクをギュッと抱きしめてくれる。
甘くて良い匂い。
いつまでもこうしていて欲しくなる。
これが、現実。
さっきまでのは、夢。
こんな夢を見たなんて、お姉ちゃん達には言えない。
絶対に言ってはいけないと思う。
でも、この夢を見るのは何度目なのだろう。
今日とは違って、デューレお姉ちゃんやリタお姉ちゃんが交わっている夢もあった…
大好きなお姉ちゃん達が、誰か解らないアイツと…
思い出しただけでも、涙が溢れそうになる。
でも、言ってはいけない。
こんな夢の事なんかで、お姉ちゃん達を心配させちゃいけない。
それが『素敵な人になる』第一歩なんだ。
「心配しないで? レイきゅんは、アタシが必ず守ってあげる。 それが…あの人との約束だもん…。」
デューレお姉ちゃんの綺麗な声。
それは、ボクの中に心地良く響き渡った。
そういえば、お姉ちゃんが時々言っている『あの人』って誰なのだろう…?
そんな事を考えながら、ボクは再び眠りに就いていた。




