巫女
お互いの名前を知ってから1週間。
最初の頃は元の世界、平和な日常が恋しくて泣き続けた。
ローランはそれを許して、傍で見守ってくれていた。
持っていたスマホもバッテリーが切れてしまった。
家族や友人の画像も見れなくなってしまった。
淋しくて、やっぱり泣き喚いた。
それでもローランは何も言わずに、優しく蒼い瞳で私を見守ってくれていた。
半月が過ぎた頃、この世界で生きてゆくしかないと理解し始めた。
元の世界に戻る手段は、何も無いのだから。
そして、私はローランに今いる世界について質問をぶつけている。
先ず最初に聞いたのは、この世界の事について。
此処はグロニア王国という、大陸の西部に位置する国らしい。
この世界には電気もガスもなく、夜は真っ暗。
風呂は火沸かし。
車や飛行機なんて全く夢物語で、馬が移動手段。
中世ヨーロッパにタイムスリップしたのではなく、つまりはアレだね。
異世界に召喚されたってやつ。
中学生の頃に読んだラノベにあったな、確かそういうの。
で…召喚された勇者は、世界を救う為に魔王と戦って打ち勝つ、ってのがテンプレ。
ガチガチの鉄板なファンタジー物語だね。
もし私が男ならそうなっていたのかな?
だけど、現実はそう上手くいかない。
この世界では召喚されたのが女の場合、巫女と呼ばれるらしい。
勿論、神社の女性とは全く関係ない。
世界を終焉させる魔王に寄り添いし者、と伝承されているという…。
なんだか男女差別酷すぎない?
私の元の世界だとヒステリックな評論家おばさまがSNSで大爆発する案件だよ。
そんな事より、どうして召喚されたのが私なのだろう?
本当に普通の女子高生だよ?
勉強は並、スポーツは苦手。
特技は……ちょっとだけ料理を作れるくらいかな、母子家庭だったから。
別段、可愛い訳でもなく…彼氏いない歴は年齢だし。
はっきり言って、何にも取り柄がない。
って、今更になって文句を垂れたところで、元の世界に戻れる訳じゃないけど。
あ、話を戻そうっと。
で、ローランは秘密裏に、勇者召喚を企む反乱分子を以前からマークしていたそう。
勇者を手駒にしての、国家転覆を画策していたらしい。
本当なら召喚は王様が直々に指揮を執って、巫女の場合でも手厚く保護する筈だったんだって。
更に…召喚の儀式を行うと100年間、再召喚は出来ないそうだ。
「それってつまり、魔王に立ち向かう勇者いなくてヤバいんじゃ…?」
素朴な疑問をローランにぶつけた。
「勇者でなくとも、魔王は退けられるんです。 巫女様が居れば…」
え…?巫女って実は強かったりするの?
もしかすると晩成型の玄人向けキャラ?
「巫女様自身には、戦う力は無いと伝えられてます。 戦って魔王に勝つのは…まず不可能です」
使えない…。
やっぱり駄目な負けジョブじゃん。
ガックリ項垂れる。
そんな私を微笑ましく見ながら、ローランは続けた。
「巫女様は魔王を魅了して、その妃と成る者…と言われています。 世界を破滅寸前に陥れた魔王ですら、巫女様に諭されて侵略を中止した…という逸話もあるんです」
うーん、何か納得いかないなぁ。
私如きが魔王を落とせる気は全くしない。
って事は…ローランは魔王懐柔に必要だから、私を助けたって事よね?
うん、仕方ない。
圧倒的に仕方ナス!
だって、世界の命運が掛かってるんだもん。
何と言うか…戦わずして敗れた感。
「セーラ、大切な事をひとつ伝えていませんでした」
酷い表情になっていた私に歩み寄ると、ローランは話を続ける。
「………現在、この世界に魔王はいません」




