名前
「馬に乗るのは初めてですか?」
「は、はい……予想以上に揺れて!」
イケメンさんは私を抱えながら、器用に馬を走らせている。
私が召喚された場所から少し離れた街。
そこで身仕度を整えるらしい。
でも……ね?
私、おしっこ漏らしてゲロ吐いた女だよ!
人類史上、最低最悪な第一印象な出逢いだよ?
身体もかなり臭う筈なのに、どうしてそんなキラキラした笑顔を見せられるの?
もしかして…爽やかな顔して、実はヤバい性癖の人?
排泄とか嘔吐に興奮したりするタイプ……?
って、何考えてるのよ……命の恩人なのに!
私の馬鹿!ヘンタイ!
「どうしました?気分が優れないなら、少し休憩しましょうか?」
彼は私の様子を見て、手綱で馬の速度を抑えながら私を気遣ってくれる。
あーッ、もう! 私ってばサイテーッ!
馬を走らせる事3〜4時間は経過しただろうか?
結構離れてると思われる宿場町に到着した。
当然、宿屋に入ると真っ先に入浴させて貰う。
何となく解り始めたけど、ここは中世のヨーロッパみたいな感じの世界だ。
勿論、洗濯機なんて有るわけもなく。
着ていた学校の制服や下着も、ついでに風呂場で洗う。
ショーツもブラも替えが無いけど……どうしよう?
取り敢えず、今日は宿屋の寝間着を着るしかない。
この寝間着で屈んだりしたら、胸が丸見え。
でも、あのイケメンさんなら見られても全然構わないかな?
て、何考えてるのよ私!
身体も綺麗になったし、私は髪を束ねる。
あのイケメンさんの好みは、どんな髪型なのかな?
何か目的が有って助けてくれたんだろうけど、私があのイケメンさんと懇ろになる可能性なんて無いよね、うん。
そんな事を考えながら普通にお下げ髪を結ってしまったのだった。
うーむ、地味だなぁ……ま、いいや。
イケメンさんが待つ部屋をノックする。
「巫女様……? どうぞお入り下さい!」
彼がドアを開けて、私を部屋の中へと案内する。
それにしても、巫女様って呼ばれるのは妙な気分になる。
あ、そうか。
まだお互い、名前も知らないんだよね。
「あの……巫女様じゃなくて、名前で呼んで欲しいな。 私の名前は水木星羅。 セーラって呼んで?」
私は自分の名前が好きじゃない。
いわゆるキラキラネームだから。
親のセンスを疑う。
お姫様じゃないんだからさ。
由来は、星が綺羅綺羅でセーラだよ?
でも、彼にはちゃんと名前を伝えたい。
何故だろう?
今、そう思った。
もしかして私、この人に恋しちゃったのかな……?
「わかりました。 巫……いや、セーラ」
「うん…じゃあ、貴方の名前も教えて?」
「僕はロヘラングリン・スペングラーと申します。 ローランとお呼び下さい」
「宜しくね、ローラン!」
初めて呼ぶ彼の名前。
初めて呼ばれる私の名前。
ローランに名前を呼ばれると嬉しくなる。
これからはもっと好きになれるかな?
自分の名前の事を、もっと……。




