号泣
「俺を…殺す……?」
絶句するレイに、リタは目を閉じて頷いた。
茫然と立ち尽くす私、泣き崩れて床に伏せるデューレ。
戦乙女の力を手にしたのに。
神剣ジュワユーズに選ばれたというのに。
私は何も出来ない。
彼ひとりを救う事すら、出来ない…
そして、リタは淡々と魔王と巫女の関係について語り始めた。
黙って聞いているだけで精一杯だった。
もしも私が昨日、ここに来なければ…
彼をこんな運命に導く事も無かったかもしれない…
私のせいだ…
ごめんなさい…ごめんなさい……
リタは全てを話し終わった時、私の頬にも涙が流れていた。
「そうか…。 俺が…魔王かもしれねぇのか…」
今から殺される事を知ってしまったレイ。
だが、彼は落ち着き払っていた。
それは、まるで全ての覚悟を決めた死刑囚の様に。
「でも、セーラには想いを伝えられた。 俺は自分の気持ちには嘘はつきたくない。 此処で死んじまうなら、それで良いさ。 それがセーラの望みなら、尚更な」
違う…
私はそんな事は望んでいない…
もう立っていられない。
膝の力が抜け、しゃがみ込んでしまう。
溢れる涙も止まらない。
こんな残酷な運命に出逢う為、私はこの世界に来たのだろうか?
「気の毒じゃが…世界を救う為、命を貰うぞ」
リタは無表情で覚悟を促す。
「デューレ、ありがとうな…。 俺の為に身体張ってくれて。強くて綺麗で、優しいエルフの姉ちゃんは…ガキの頃からずっと俺の憧れだったよ…」
床に伏せて泣き続けるデューレを一瞥し、目を閉じるレイ。
「そして…セーラ。 昨日今日でお別れになるなんて、夢にも思わなかったけどよ…。 俺、本気だったんだぜ? こんな形でお別れになっちまうけど…セーラに逢えて良かったって思ってる。 たまにはローランだけじゃなくて…俺の事も思い出してくれよな?」
私とデューレは泣いていた。
張り裂けんばかりの大声で泣き続けていた。
「…もういいぜ。 やっちまってくれ…リタさん」
レイの覚悟は決まった。
リタの掌に作られる紅い光球。
魔法か属性の力なのかは知らないが、それを何に使うのかは直ぐに理解出来た。
「うむ…。次に生まれ変わる時は、魔王にならぬ様にな…。では、やらせて貰うぞ」
もうこれ以上、2人を見ている事なんて出来ない。
私もデューレも、目を背けた。
レイの命が消える瞬間なんて見たくない…
どれくらいの時間が経ったのだろうか?
ただ、私とデューレの泣き声だけが響いている。
レイ…きゅんも…ローランの所に…行ってしまった。
彼には…泣かされてばかりだったな。
こんなお別れの仕方じゃ…この先もずっと…泣かされちゃうな…
ホント、酷いよ…レイきゅん…
「早く顔を上げんか!儂の気が変わったわい…」
リタの声。
恐る恐る顔を上げて、声の方を見る。
そこには…
リタと、そして苦笑いをするレイが居た。
「ど…どうして…?」
「此奴を殺したら、お主らが使い物にならなくなる。
戦乙女と弓術士が揃って戦意喪失とあっては、この先が厳しいから仕方があるまい?」
そう言うと、リタは恥ずかしそうに目を逸らす。
「でも…魔王かもしれない…」
「解っておるわ! 此奴はこれから…儂らの旅に同行させる。 もしも魔王に覚醒する気配を見せた時は、躊躇なく瞬時に殺すが…それだけは譲らんぞ?」
リタの判断を聞いて、私は思わずデューレと抱き合った。
そして泣いた。泣き続けた。
今の涙は悲しいんじゃない。
嬉しいんだ。
良かったね、レイきゅん…
貴方はきっと魔王なんかじゃない。
私もデューレも信じてるから!




