抱擁
転移した場所。
それは、昨日に訪れたばかりの工場みたいな研究室。
この中に、彼が居る。
リタはノックもしないでドアを開けて中に入って行く。
デューレと顔を見合わせ、お互いに無言のままに続いて中に入る。
昨日と同じ、沢山のガラクタの様な資材。
その奥に…彼は居た。
もう、どうする事も出来ないのか?
彼の姿を見た途端、涙が零れてしまいそうになる。
「ん…? セーラにデューレ、まだ出発してなかったのか。 で、どうして此処に来たんだ?」
そう話している最中に、隣で肩を震わせていたデューレが彼の元へと駆け出した。
「おいッ、バカ王子ッ!アタシに…乗り換えろッ!」
そう叫びながら、抱きついたデューレ。
「えッ!? 何を言ってんだよ!?」
「セーラっちじゃなくて、アタシの事を好きになれって言ってんのよッ!」
既にデューレの顔は涙でグチャグチャになっていた。
強く抱擁しながらも必死に叫んでいる。
「意味わかんねぇだろッ? いきなりそんな…」
そう喋るのを遮る様に、デューレは自らの唇を重ね合わせた。
それは、とても悲しい口づけだった。
「ん…んん…、止めろって! いったい何なんだよッ!」
必死にデューレの抱擁を振り払うレイ。
「うるさいッ! アタシの方が好きだって言いなさいッ! そうすれば、もっと凄い事もしてあげるわッ!」
そう叫びながら、デューレは着ていた服を脱ぎ始める。
「アタシに乗り換えるなら…アンタの子供だって産んであげても良いわよッ! そうなったら…次のグロニアの世継ぎはハーフエルフになっちゃうわね…ハハッ…ハッ……う…う…うわぁぁぁぁッ!」
下着姿を露わにしながら、遂にデューレは泣き崩れてしまうのだった。
レイとの付き合いが長いデューレ。
彼が幼少の頃からずっと知っていると聞いた。
おそらく、彼女にとっては弟の様な存在なのだろう。
「どうしてなのよッ…? アンタが…どうして…なのよッ!?」
必死に言葉を振り絞るデューレ。
私よりも…きっと辛いのだと思う。
その身体を張った行動力に驚きつつも、行き場のないデューレの悲しみが私にも襲いかかる。
「状況が全然わかんねぇけどよ、俺が好きなのはデューレじゃなくてセーラだから…さ?」
レイはそう言いながら私を見つめ、自分の着ていた上着を脱ぐとデューレに羽織らせた。
デューレは嗚咽を上げながら床に倒れ込んでしまっている。
そこへ、リタがゆっくりと歩み寄って来た。
「グロニア第1王子レイワイゼンよ…。 申し訳ないが貴様には…死んで貰わねばならぬのじゃ……許せ!」
その非情な台詞が、研究室に響き渡ったのだった。




