陥落 (side : デューレ)
眩い金色の光を纏ったまま、レイはこちらに向けて歩み進めていた。
「それ以上…私に近づくのなら…!」
アタシの喉元に白夜が手をかざす。
その瞬間、首周りが再び氷に覆われて凍結してゆく。
「このエルフの首を、このまま砕き折らせて貰おうかしら…!」
冷酷な瞳の奥に残虐な炎を燃やす白夜は、アタシの首元を摑む。
今のアタシには、白夜の手を振り解く体力すら残っていない。
意識が飛んでしまいそうな寒気。
そして、白夜の指に力が入るのを感じた。
ミシミシと氷と共に、首が砕かれ始めている。
間も無く、アタシは死ぬだろう。
レイの姿を最後に瞼に焼き付けたかった。
首を砕かれて、頭が落下する前に…レイを見ていたかった。
(レイ…ありがと…)
涙が零れた。
だが、アタシに死は訪れなかった。
首元を握っていた白夜の手は、熱いものに触れたかの様に勢いよく離される。
いつの間にか、首を覆った筈の氷も溶けていた。
「何度も言わせんなよ…。 デューレに手を出すなってんのが解んねぇのか…!」
「勇者の力が…まさか、私の能力を…無力化しているというの…!」
信じられないといった表情を露わにしながら、白夜は後ずさりを始めた。
「もう次はねぇぞ…? 死にたくなかったら……とっとと失せろ!」
氷の魔神を完全に圧倒しているレイ。
これが、勇者の力なのか…?
「癪だけど、私達の完敗…ね。 今日のところは撤退するしかなさそうだわ…!」
負け惜しみを吐きながら、転移魔法を無詠唱で発動させた白夜。
恐るべき氷の魔神は、こうして一瞬で姿を消した。
「大丈夫か? デューレ……」
アタシの身体を優しく抱き止めるレイ。
「大丈夫…な訳…ないわよ…まったく……」
レイの抱擁に、心臓が高鳴っている。
目から溢れ始めたものを見られたくなかったが、首を逸らす力さえ残っていない。
「そっちの姉ちゃんも…生きてるよな?」
「は、はい…な、何とか……!」
続けてヨーミンを気遣ってくれるレイ。
相変わらず口は悪いけど、優しい。
「それと…アンタ…どうして…魔神を…逃がしたの…よ…」
照れ顔を見られたくないアタシは、気になった事を口にした。
レイが白夜を、わざと逃がした様に感じたのだ。
勇者でもあり、また魔王でもある…?
「チッ、ズタボロになってる癖に細けぇな…。 俺は女に手を挙げる様な真似はしたくねぇんだよ。 例え、敵だろうとな…」
アタシを抱えながら、レイが目を泳がせる。
それはレイ自身の優しさからなのか、それとも魔王としての仲間意識によるものなのかは解らない。
「そろそろ…時間の様だ。 デューレの好きな、小さな『レイきゅん』が戻りたいって言っているからよ…」
「えっ…?」
「じゃ…またな、デューレ……」
それは、突然だった。
レイの身体が…リタ婆の魔法を受けた時と同じく、小さくなっている。
レイは、レイきゅんに戻ってゆく…!
気を失ったレイきゅんの身体は、アタシを抱えられずに倒れ込む。
「大きくなった…アンタだって…好きに…なっちゃっ……」
限界だったアタシの意識も遠のき、レイきゅんの身体と重なる様に地に伏せたのだった。




