乙女 (side : デューレ)
いったい、何が起こっているの…?
意識が混濁している。
朦朧とする頭を起こし、辺りを見渡す。
アタシの身体を覆った筈だった魔神の氷塊。
それが、いつの間にか消えている…?
隣に居るヨーミンも同様に、氷塊の呪縛から解かれて無事の様だ。
だが、身体がピクリとも動かない。
四聖人としての強靭な肉体である筈なのだが、氷漬けにされたダメージの蓄積は思った以上に大きかった。
ガクリと膝は折れ、その場に尻餅をついてしまう。
魔族であるヨーミンの身体でさえも、それはアタシと変わらない状況であった。
そして…薄暗かった広間の中は、眩い金色の光に包まれている。
アタシの目の前にいる氷の魔神は、何故かその動きを止めていた。
広間を照らす光に向けられた顔は、驚愕に満ちた表情を作っている。
「どうして…? 有り得ないわ…!?」
その声は震えている。
明らかに動揺しているのが、見ただけでも解る。
白夜の狼狽え方は、まさしく尋常ではなかった。
「どうして…! 何故…魔王閣下ではなく、勇者の光を放っているの…!?」
目を見開き、白夜が嗚咽混じりに声を絞り出す。
それは、アタシ達にとっても衝撃であった。
何故なら、白夜が見据える先…光の中に居たのは!
レイきゅん……?
いや、違う。
氷塊に閉じ込められていた子供ではない。
それは…リタ婆に若返らされる前の成長した姿。
レイきゅんではなく、レイ。
子供サイズの服は破れ、まるでボロ雑巾を纏っている様だ。
(何故…どうして…大人の姿に…?)
いや、大人に戻ろうと大した問題ではない。
先程、白夜が口にした事…!
(レイが…勇者…? 魔王じゃなく……勇者?)
口を開く事さえ出来ない今のアタシには、心の中でそう呟くしかなかった。
「その光は…何なの!? どうして…魔王閣下へと覚醒しないッ!?」
金色の光に包まれたレイに向けた、白夜の叫び声が広間に響き渡った。
「……そんなの、俺が知るかよ」
白夜を鋭く睨みながらの、レイの返事。
臆する事なく、真っ直ぐこちらへと歩み始める。
「こ、来ないでッ! それ以上、私に近寄るならば…この2人の命はないわ…!」
起き上がる事も出来ないアタシ達を、白夜が一瞥する。
「何度も言わせんじゃねぇ…。 俺の大切な人に手を出すな……」
歩み寄るレイの、その気持ちだけでも充分だった。
いつか、小さなレイきゅんだった彼に言った事。
あの頃の記憶が鮮明に浮かぶ。
(覚えていてくれたんだ…!)
そして、アタシを大切な人だと言ってくれている…。
こんなに嬉しい事が、他にあるだろうか?
今、この瞬間。
アタシは、ただの女の子だった。
逞しくなったレイに見惚れている、ただの乙女になっていた。
「…今の…アンタ…凄く…カッコイイ…わよ…」
レイには届かないであろう、か細い震えた声。
痺れが残る顔の筋肉を必死に動かし、アタシは言葉を紡いだのだった。




