覚醒 (side : レイ)
物心ついた頃から、ボクはいつも泣いていた。
グロニア王国の第1王子として生まれ、将来は王位を継承する身分。
そして、ボクには一歳下の弟である第2王子がいる。
全てに於いて、弟のローランはボクより優れていた。
礼儀作法、剣術、学問…どれをとっても弟は遥かに優れ、ボクの出来の悪さを目立たせる原因になった。
弟は悪い奴じゃない。
寧ろ、とっても良い奴だ。
自分を鼻に掛けたりせず、誰であろうと分け隔てなく接してくれる。
当然、こんなボクにも…。
「何をイジケてるのよ、レイきゅん?」
デューレお姉ちゃんだけが、ボクに構ってくれる。
「また第2王子と比べられたの…?」
涙顔のボクはコクリと頷く。
デューレお姉ちゃんはしゃがみ込み、その綺麗な顔はボクと同じ目線の高さになった。
「いつも言っているでしょ? 剣の腕前とか頭の良さだけで、男の価値が決まるんじゃないのよ…?」
「でも、ボクなんて…」
「レイきゅんはアタシが凄い男にするんだから、諦めちゃ駄目よ!」
デューレお姉ちゃんはいつも優しい。
優しくて、強くて、綺麗なエルフのお姉ちゃん。
リディマーさんが亡くなったのも、きっとボクのせいなのに。
「ボクは…お姉ちゃんみたいに強くない…」
それでも、劣等感はボクから離れない。
デューレお姉ちゃんに対しても、こんな事を言ってしまう自分が嫌になる。
…………!?
突然、ぎゅっと抱きしめられた。
お姉ちゃんの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「レイきゅんが強いとか弱いとか、そんな事じゃないわ。 男の価値ってのはね、大切な人を守る勇気があるかどうかで決まるの。 アタシはレイきゅんに、それが出来る男になって欲しいの…」
「大切な人を…守る、勇気…?」
デューレお姉ちゃんが…!
ボクの大切な、デューレお姉ちゃんが…!
氷漬けにされて動けないのに、意識ははっきりとしている。
目の前で起こっている出来事が、しっかりと目に見えている。
ボクを助けに来てくれたデューレお姉ちゃん、そして初めて見る女の人。
2人共、ボクと同様に氷漬けにされてしまった!
氷の魔神はボクの大切な人を殺そうとしている!
なのに、ボクの身体は動かない。
どうして…?
今直ぐ、魔神にしがみついてでも止めなきゃいけない!
大切な人を守る勇気、それを使わなきゃいけないのに。
どうしてボクの身体は動かないの?
氷漬けにされてるから?
違う…。
確かにそうだけど、そうじゃない。
ボクの身体が動かないのは、ボクが弱いからだ。
氷の魔神が怖いからだ。
(このまま…デューレを見殺しにする気なのか?)
ボクの頭の中に響く、誰かの声。
(今、この瞬間に何もしなければ…俺はオマエを一生許さねぇぞ……)
そんな事を言われても、どうすれば良いの?
(デューレは…オマエの大切な人なんだろうが……!)
そんな事、当たり前だ。
だから、だからッ! ボクは…!
ボクの大切な人に…
(俺の大切な人に…)
デューレお姉ちゃんに…
(デューレに…)
手を出すなッ…!
(手を出すんじゃねぇ…!)
「さよなら、エルフさん…」
氷の魔神が無情にも囁いた瞬間。
そして、それは覚醒の瞬間でもあった。




