絶望 (side : デューレ)
セーラっちが操る水属性の上位互換、それが氷属性。
ありとあらゆる物を一瞬にして氷結させ、猛吹雪をも巻き起こす恐るべき力。
ならば…それを使わせる暇も無い程、速さで圧倒すれば良い。
月影との戦闘と同様、アタシとヨーミンのスピードをもってすれば勝てる…!
だが…それは、甘い判断であった。
身体が、動いていない…?
白夜に向けて駆け出した筈だった、アタシとヨーミン。
二人の脚は、既に氷に覆われている…!
「くッ…! いつの間にッ…」
身悶えるヨーミン。
アタシ達の脚を覆っている氷は、徐々に上に向けて広がってゆく!
だけど、対処方法はある!
「火の精霊…!」
先程、ドラゴンゾンビを焼き払った精霊を再び召喚。
氷の弱点、それは火。
火の精霊の火炎なら、この程度の氷を溶かすのは容易な事だ。
だが、それすらも甘い判断であったのだ…。
召喚した火の精霊は、出現した瞬間…氷結した。
「無理よ、エルフさん…」
白夜はそう囁くと、氷漬けの火蜥蜴に歩み寄り、その氷塊に触れた瞬間…!
火の精霊の身体と共に、氷塊は木っ端微塵に砕け散った。
「な……!?」
ヨーミンもアタシも、狼狽を隠せない。
桁外れに強い。
アタシとヨーミンが手も足も出ないまま、既に自由を奪われている。
これが魔王軍三巨頭たる、氷の魔神の力…!
まだ動かせる手で、矢筒から一本の矢を掴む。
風神の矢。
その色は未だ、ドス黒く濁っていた。
(今こそ使わなきゃ、いつ使うってのよ…! お願い、アタシにもう一度だけ力を貸してッ!)
嵐弓フェイルノートを背中から取り、即座に矢を射る!
だが…矢は宙を切る事も無く、アタシの目前に堕ちるだけであった…。
「風神だけが私を倒せる手段だったんでしょう? でも、召喚すれば暫くは使えないのは折り込み済みよ。 だから不死の王を当て馬にしたの…」
コイツ…不死の王の軍勢でさえも、使い捨ての駒くらいにしか思っていない?
「次は…貴女達を砕いてあげるわ…!」
切り札たる風神も駄目、下半身は氷漬けで動けない。
今このタイミングで、戦乙女と大賢者が『お待たせ! 助けに来たわ!』と来てくれる以外、アタシ達が助かる見込みはないだろう。
無理だ…。
どう考えても、それは有り得ない。
アタシ達の居場所を捜すだけでも、どれだけの時間が掛かる事か。
「レイワイゼン王子が覚醒する条件は、絶望と怒りに支配される事なの…」
「絶望と…怒り…?」
氷の様な微笑を浮かべながら、白夜がアタシに語り掛ける。
「王子は身動き出来ないけれど、目も見えているし、意識もはっきりとしているわ。 だから…目の前で氷漬けになったエルフさんを粉々にすれば、きっと魔王閣下に覚醒なさると思わない?」
「アタシを殺す事が…覚醒の手段!?」
身体の氷結は、既に腰まで上っている。
あと数十秒もすれば、頭の先まで氷に覆われてしまうだろう…。
「このッ! やめろッ!」
ヨーミンの怒声が虚しく広間に響く。
「黄泉ちゃんにも…裏切った大罪は、その命で償って貰うわよ…?」
一瞥したヨーミンにも、冷酷な台詞を投げる白夜。
いよいよもって、絶体絶命。
どうする…?
どうすれば良い…?
今迄も幾度となく、修羅場を潜り抜けて来た。
今回だって…きっと…
…何とか…する…ん…だ……
そして、アタシは絶望に包まれた。
氷結は遂に頭へと達し、意識は暗闇へと誘われたのだった…。




