腐龍 (side : デューレ)
やはり何かがおかしい…?
精霊達も異変を感じ取っていない。
そう思うのは弓術士としての直感だった。
「このォォォッ!」
遂にヨーミンが飛び出してしまった。
大剣を構えながら猛烈な速度で突進してゆく。
しかし、微動だにしない月影。
その顔には微笑が浮かんでいる…?
「駄目ッ! ヨーミン止まってッ!」
アタシが叫んだ瞬間、それは出現した…!
それは最初から潜んでいたのかもしれない。
月影の背後、陽の光に照らされた砦の大きな影。
一瞬にして影の中から現れた巨体こそ…!
腐龍……ドラゴンゾンビ!
あの暗黒龍を不死の怪物にしたものだ。
途端に辺りに腐臭が漂う。
ボロボロになっている巨躯からは、体液である強酸がポタポタと滴っている。
おそらくは不死の王に造らせたのであろう。
ドラゴンはゾンビ化すると、生前以上に厄介な敵となる。
痛みや恐れといった生物の本能が排除されたドラゴンの脅威は、生半可な魔獣よりも遥かに上回る。
「先ずはオマエを溶かしてやる…」
和やかな笑顔を見せた月影の呟き。
そして、ドラゴンブレスが突進するヨーミンに向けて放たれた…!
もう間に合わない…!
回避するのは不可能な間合い。
扇の様に放射状に放たれた強酸。
それはシャワーの様にヨーミンの身体に降り注いだ。
「ヒヒッ…イヒヒッ…! 溶けた…溶けやがったわ!」
下衆な声を発しながら嗤い出す月影。
喜びに満ち溢れた笑顔。
この魔神の少女は想像以上にサイコパスだ。
だが、その笑顔も長くは続かない。
ドラゴンゾンビの放ったブレスの洗礼が終わった中から、無傷のヨーミンが飛び出した。
渾身の一撃が月影を狙う。
小太刀で斬撃を受け流す月影。
しかし、パワーでは大剣のヨーミンの方が上。
受け流しながらも、後ろに吹っ飛ばされてしまう。
「クッ…! どうして溶けていないんだよッ!」
体勢を整えながら、怒りを吐き出す月影。
その月影をフォローするかの様に、ドラゴンゾンビの巨大な腕がヨーミンを襲う。
ヨーミンも一旦、アタシの近くまで後退して来た。
「無策で突っ込んだりさせないわ。 精霊達に守護して貰ったのよ…」
アタシの言葉に反応して、風の障壁と土の防楯がホワっと浮かび上がる。
ヨーミンに直撃したドラゴンブレスは、これらによって無力化していたのだ。
「助かりました…デューレさん!」
「お礼はいいからさ、あとでおっぱい揉ませて?」
「駄目です」
「じゃあ…揉まないから、吸わせて?」
「それも駄目です」
ヨーミンも冷静さを取り戻した。
気になっていた相手の全貌も判明した。
これでやっと対等に戦える。
「さてと、教えてあげるわ。 真の暗殺術の恐ろしさってやつをね…?」
2対のオリハルコンナイフを逆手持ちに握り直す。
「アンタを恐怖のどん底に叩き込んであげる…!」
アタシは月影を見据え、そう呟きながら舌を舐めずった。




