憎悪 (side : デューレ)
「その背中の弓は…嵐弓フェイルノート…! すると、オマエが弓術士だな? もう一人は裏切り者か……」
月影と名乗った魔神の少女は、アタシ達の素性をいとも簡単に見抜いていた。
銀髪のショートカットと切れ長の目。
美しくはあるが、どこか冷たさを感じる顔立ち。
その肌は雪の様な白さ。
全てがヨーミンとは真逆である月影。
まるで殺戮だけを目的にしている様な彼女だが、果たして笑顔を誰かに見せたりするのだろうか…?
ふと、そんな事を考えてしまう。
「そういうアンタこそ、その小太刀に塗ってる毒……暗黒龍の血ね?」
アタシも負けず、小太刀の毒について言い返す。
今は亡き聖戦士が数年前に討伐した、漆黒の巨大なドラゴン。
その口から吐くドラゴンブレスは全てを溶かす強酸。
その血液さえも同様であり、その返り血を浴びればリタ婆の様になってしまうのである。
この月影がどうやって暗黒龍の血を手に入れたのかは知る由も無いが、アタシ達にとっては脅威に他ならない。
「フン、下らない知識だけは持っているんだな…?」
顔色ひとつ変えずに小太刀を構える月影。
アタシとヨーミンの二人を相手にするというのに、この余裕はいったい…?
何かがおかしい。
他にも伏兵が潜んでいる…?
今のところはアタシの聴覚や嗅覚に感じるものは無い。
上空には風の精霊、地中には土の精霊を密かに召喚して配置している。
しかし、彼らにも他の敵を感知出来ていない。
だが、それ以上にヨーミンの様子が変わっていた。
肩が小刻みに震えている。
頭は項垂れ、ぶつぶつと何かを言っている…?
「お前が…お前がッ! お前がぁッ! お姉様を…お姉様をやったのかぁッ!」
鬼の様な形相で月影を睨みつけるヨーミン。
先程までの温和な雰囲気から一転、まごう事無く斬撃の魔神に戻っている…!
「お姉様…? もしかして…今頃は溶けて無くなっている大賢者の事か? 」
「お前は…お前だけはッ! お前だけは…絶対に許さないッ! 僕が…お前をッ!」
ヨーミンは完全に頭に血が上っている。
この状況では不味い。
アタシでは月影に反応が出来なかった。
だが、ヨーミンには反応が出来た。
怒りに身を委ねれば、それが出来なくなってしまう。
このままでは月影の思う壺になってしまう。
「ヨーミン、落ち着こうか? 」
「デューレさん…僕にやらせて下さい。 ギッタギタに切り刻んでやりますから…!」
駄目だ…。
狂戦士になる寸前の状態。
「ゴチャゴチャ喋ってないで、早く掛かって来れば…?」
そして、月影の挑発。
コイツは対人戦に慣れている…!
戦闘は不利な方向に流れ始めた。
アタシはひしひしとそれを実感していたのだった。




